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・・・いろいろ理屈をひねくって根気よく初志を捨てないのがこの人の癖である、おとよはこれからつらくなる。 お千代はそれほど力になる話相手ではないが悪気のない親切な女であるから、嫁小姑の仲でも二人は仲よくしている。それでお千代は親切に真におとよに・・・
伊藤左千夫
「春の潮」
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・・・どのように言ってみても、勝治は初志をひるがえさず、ひるがえすどころか、いよいよ自己の悲壮の決意を固めるばかりである。母は窮した。まっくらな気持で、父に報告した。けれども流石に、チベットとは言い出し兼ねた。満洲へ行きたいそうでございますが、と・・・
太宰治
「花火」