・・・出版の都度々々書肆から届けさしたという事で、伝来からいうと発行即時の初版であるが現品を見ると三、四輯までは初版らしくない。私の外曾祖父は前にもいう通り、『美少年録』でも『侠客伝』でも皆謄写した気根の強い筆豆の人であったから、『八犬伝』もまた・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・お前は知るまいが、初版は千五百部で以後五百部ずつ版を重ねたのだ。「――なぜ、こんな本が売れるのでしょう?」 と、出版屋も不思議がったくらいだが、不思議でもなんでもない。お前が買うから売れたのだ。出る尻から本が無くなるので、出版屋は首・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
「晩年」も品切になったようだし「女生徒」も同様、売り切れたようである。「晩年」は初版が五百部くらいで、それからまた千部くらい刷った筈である。「女生徒」は初版が二千で、それが二箇年経って、やっと売切れて、ことしの初夏には更に千・・・ 太宰治 「「晩年」と「女生徒」」
最初の創作集は「晩年」でした。昭和十一年に、砂子屋書房から出ました。初版は、五百部ぐらいだったでしょうか。はっきり覚えていません。その次が「虚構の彷徨」で新潮社。それから、版画荘文庫の「二十世紀旗手」これは絶版になったよう・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・の難解のことに於て、全く我々読者を悩ませる。特に「ツァラトストラ」の如きは、片手に註解本をもつて読まない限り、僕等の如き無識低能の読書人には、到底その深遠な含蓄を理解し得ない。「ツァラトストラ」の初版が、僅かにただ三部しか売れなかつたといふ・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・そこで私はあの本の初版に拠って、「ファウスト作者伝」と云うものを書いて、これも文芸委員会へ出して置いた。但しビイルショウスキイは「ウルファウスト」を知って「ウルマイステル」を知らなかった。「ウルマイステル」はビイルショウスキイが死んだ後に発・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
出典:青空文庫