・・・同氏は薬罎を手に死しいたるより、自殺の疑いを生ぜしが、罎中の水薬は分析の結果、アルコオル類と判明したるよし。」 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・ が、かく菌を嗜むせいだろうと人は言った、まだ杢若に不思議なのは、日南では、影形が薄ぼやけて、陰では、汚れたどろどろの衣の縞目も判明する。……委しく言えば、昼は影法師に肖ていて、夜は明かなのであった。 さて、店を並べた、山茱萸、山葡・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・爪さきが薄く白いというのか、裳、褄、裾が、瑠璃、青、紅だのという心か、その辺が判明いたしません。承った処では、居士だと、牡丹のおひたしで、鼠は朝顔のさしみですかな。いや、お話がおくれましたが、端初から、あなた――美しい像は、跣足だ。跣足が痛・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・ 濡れても判明と白い、処々むらむらと斑が立って、雨の色が、花簪、箱狭子、輪珠数などが落ちた形になって、人出の混雑を思わせる、仲見世の敷石にかかって、傍目も触らないで、御堂の方へ。 そこらの豆屋で、豆をばちばちと焼く匂が、雨を蒸して、・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・戦いは敗れ、国は削られ、国民の意気鎖沈しなにごとにも手のつかざるときに、かかるときに国民の真の価値は判明するのであります。戦勝国の戦後の経営はどんなつまらない政治家にもできます、国威宣揚にともなう事業の発展はどんなつまらない実業家にもできま・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・「既報“人生紙芝居”の相手役秋山八郎君の居所が奇しくも本紙記事が機縁となって判明した。四年前――昭和六年八月十日の夜、中之島公園の川岸に佇んで死を決していた長藤十吉君を救って更生への道を教えたまま飄然として姿を消していた秋山八郎君は、そ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・なぜ、こんなものを、切り抜いて置いたのか、私自身にも判明せず。今夜、フランス製、百にちかい青蛙あそんでいる模様の、紅とみどりの絹笠かぶせた電気スタンドを、十二円すこしで買いました。書斎の机上に飾り、ひさしぶりの読書したくなって、机のまえに正・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・同じ町の生れゆえ、それで自社の新聞を送って下さったのだ、ということは、判明するに到ったが、やはり、どんなお人であるか、それを思い出すことができないのである。とにかく御好意のほどは、わかったのであるから、私は、すぐにお礼をハガキに書いて出した・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・けれども、次の言葉で、真意が判明し苦笑した。「しかし、こないだの選挙では、お前も兄貴のために運動したろう」「いや、何も、ひとつも、しなかった。この部屋で毎日、自分の仕事をしていた」「嘘だ。いかにお前が文学者で、政治家でないとして・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・どういう意味であるか、自分で考えてみても判明しない。私は、そのときも不安であった。いま考えてみると、たしかに胸騒ぎがしていた。虫の知らせ、というやつであろう。けれども、まさか、これが、どろぼう入来の前兆であるとは気がつかなかった。私はこれを・・・ 太宰治 「春の盗賊」
出典:青空文庫