・・・さまも、王妃も、また家来の衆も、ひとしく王子の無事を喜び矢継早に、此の度の冒険に就いて質問を集中し、王子の背後に頸垂れて立っている異様に美しい娘こそ四年前、王子を救ってくれた恩人であるという事もやがて判明いたしましたので、城中の喜びも二倍に・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・のみならずいろいろな雑音はその音源の印象が不判明であるがために、その喚起する連想の周囲には簡単に名状し記載することのできない潜在意識的な情緒の陰影あるいは笹縁がついている。音の具象性が希薄であればあるほど、この陰影は濃厚になる。それだから、・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
「学位売買事件」というあまり目出度からぬ名前の事件が新聞社会欄の賑やかで無味な空虚の中に振り播かれた胡椒のごとく世間の耳目を刺戟した。正確な事実は審判の日を待たなければ判明しない。 学位などというものがあるからこんな騒ぎ・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・しかしこれとても研究さえすれば次第に判明すべき種類の事がらである。この基礎的の方則が判明しない限り大火に対する有効な消防方針の決定されるはずはないのである。 火災の基礎的研究には単に自然科学方面のみならず、また心理学的方面、社会学的方面・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・翌朝出入の鳶の者や、大工の棟梁、警察署からの出張員が来て、父が居間の縁側づたいに土足の跡を検査して行くと、丁度冬の最中、庭一面の霜柱を踏み砕いた足痕で、盗賊は古井戸の後の黒板塀から邸内に忍入ったものと判明した。古井戸の前には見るから汚らしい・・・ 永井荷風 「狐」
・・・ちょっと考えると、彼らは常人より判明した頭をもって、普通の者より根気強く、しっかり考えるのだから彼らの纏めたものに間違はないはずだと、こういうことになりますが、彼らは彼らの取扱う材料から一歩退いて佇立む癖がある。云い換えれば研究の対象をどこ・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・何となれば、幾何学においては、その根本概念が感官的直観と一致するが故に、それは何人にも受入れられるが、形而上学的問題においては、最始の根本概念を明晰に判明に把握することが困難なのである。本来の性質からは、それは幾何学のものよりも、一層明晰な・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・デカルトが clare et distincte[明晰判明]という所に、既に視覚的なものがある。優れたフランスの思想家の書いたものには、ショペンハウエルが深くて明徹なスウィスの湖水に喩えたようなものが感ぜられる。私はアンリ・ポアンカレのもの・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・共産党員をスパイにつかって、共産党を非合法に追いこむためにさまざまな挑発をおこなってきたことが判明しました。 こんにちの商業新聞は、スクープさえ自由にできない状態におかれています。千葉のファシスト組織のことが一行でもかかれた新聞があった・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・の文学と名づけられた動きに一定の文学理論を与えることを不可能にしたし、ひいてはその創作方法も明らかにされず、この提唱の下にどのような作品が生れねばならないかと云うことは、グループ内の作家たちにとっても判明しなかった。行動主義文学は、発生の根・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫