・・・よってもってわが邦の制度文物、異日必ずまさになるべき云々の状を論ず。すこぶる精微を極め、文辞また婉宕なり。大いに世の佶屈難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君齢わずかに二十四、五。しかるに学殖の富衍なる、老師宿儒もいまだ及・・・ 中江兆民 「将来の日本」
・・・また昔は階級制度が厳しいために過去の英雄豪傑は非常にえらい人のように見えて、自分より上の人は非常にえらくかつ古人が世の中に存在し得るという信仰があったため、また、一は所が隔たっていて目のあたり見なれぬために遠隔の地の人のことは非常に誇大して・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・「最後に小生は目下我邦における学問文芸の両界に通ずる趨勢に鑒みて、現今の博士制度の功少くして弊多き事を信ずる一人なる事を茲に言明致します。「右大臣に御伝えを願います。学位記は再応御手許まで御返付致します。敬具」 要するに文部大臣・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・左れば今婦人をして婦人に至当なる権利を主張せしめ、以て男女対等の秩序を成すは、旧幕府の門閥制度を廃して立憲政体の明治政府を作りたるが如し。政治に於て此大事を断行しながら人事には断行す可らざるか、我輩は其理由を見るに苦しむものなり。況して其人・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この時、衣服の制限を立るに、何の身分は綿服、何は紬まで、何は羽二重を許すなどと命を出すゆえ、その命令は一藩経済のため歟、衣冠制度のため歟、両様混雑して分明ならず。恰も倹約の幸便に格式りきみをするがごとくにして、綿服の者は常に不平を抱き、到底・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・そして、現世の組織、制度に対しては社会主義が他方に在る。と、まあ、源は一つだけれども、こんな風に別れて来ていたんだ。 社会主義を抱かせるに関係のあった露国の作家は、それは幾つもあった。ツルゲーネフの作物、就中『ファーザース・エンド・チル・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ 内縁関係、未亡人の生きかたに絡む様々の苦しい絆は、経済上の性質をもっているにしろ、その根に、精神の軛として、封建的な家族制度がのしかかっている。今度の第二次世界戦争で、日本の軍事的権力は百四万以上の生命を犠牲とした。家庭は、既に強権に・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・この稲田に注がれている農村の女の労働力はいかばかりかしれないのに、日本の家族制度では、女は馬の次に考えられ、かあさんたちの一人もこの稲田の持ち主ではないだろう。働く婦人が、まっさきに勘定されるのはクビキリの場合だけである。これは国鉄にはっき・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・海軍は階級制度がだらしなくって、その点陸軍の方がはっきりしていますからね。僕はいま陸軍から引っ張りに来ているんですが、海軍が許さないのです。」 水交社が見えて来た。この海軍将校の集会所へ這入るのは、梶には初めてであった。どこの煙筒からも・・・ 横光利一 「微笑」
・・・がそう考えて来ると共に、現在の組織制度がもはや父のごとき志を実行不可能なものにしていることにも自ら気づかざるを得なくなった。 自ら直接に皇室に接することのできる人々は別である。一平民として今自ら皇室を警衛しようと欲するものは、一体どうい・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫