・・・ひっきょう、学校の教育不完全にして徳育を忘れたるの罪なりとて、専ら道徳の旨を奨励するその方便として、周公孔子の道を説き、漢土聖人の教をもって徳育の根本に立てて、一切の人事を制御せんとするものの如し。 我が輩は論者の言を聞き、その憂うると・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ 流行もなにもないぼってりした恰好で、後れ毛を頬にたらした無学なおとなしいグラフィーラは、自分達の家庭へ他人があばれ込むのも制御出来ない。而も、彼女は今辛い心持をやっと押えているのであった。さっきアイロンをかけるためにドミトリーの上着を・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・に蚯蚓の様な静脈を表わしてお金は、自分でも制御する事の出来ない様な勢で親子を攻撃した。「何ぼ私が酔狂だって、何時なおるか分らない様な病人の嫁さんに居てもらいたいんじゃありませんよ。若し、何と云っても自分の懐をいためるのがいやだと云う・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・情熱は女を生かし、みちびき、何物かを創造する力となるけれど、一方またそれを抑え、制御し、率いるだけの意志とか理性とかいうものは殊に女にとっては必要ではないかしら、情熱のために生活全体の破滅を来たすとはおそろしい事ね。 そうね、こうして自・・・ 宮本百合子 「久野さんの死」
・・・時空的なものに制御を受けつつも、制御を与える時空的なものと、それを蒙っている自己の状況に対して見開かれている眼と、水火に在っても動かされている手足とを失ってはいないのが現実であろうと思う。 さもなければ、動くものとして人間が動かしている・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・人間社会と自然とは、人間による自然力の最大な受用、制御、生産力への転換としての関係にある。そこで、人間社会の構成が生産手段の進歩、複雑化するにつれて、同じ人間であっても、直接、体でもって自然と組打ち、泥にまびれ、水にぬれ、坑にもぐって働かね・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・ルネッサンスは、モナ・リザにああいう微笑を湛える人間的自由は与えたが、そのさきの独立人としての婦人の社会的行動は制御していたのであった。 こうしてみればルネッサンスの華やかな芸術も、その時代の人達を完全に解放してはいなかったことが明かで・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・電車のルートの工合で、動き廻る道筋を制御される我々は、東京の他の沢山の隅々を、何か特別なきっかけのない限り外国に在る街同然知らないで過ごす通り、牛込、神楽坂などに縁遠かった。 けれども、思い出して見ると、神楽坂は、さすがに去年までまるで・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・しかも 彼が芸術家であれば◎芸術家は完成と静けさにおいて形成することを希うアーティストの制御しがたい憧れ をもっている、 とをもっている。この二つの間にゆれる。そして最も強壮な精神だけがこの調和しがたい二つの本源的なものを、・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・「自然科学者は自然を制御することによって」「人間が人間自身を世界から消滅せしめ得るようなものを作った。」「しかし社会科学では幸か不幸か、こうした天才が現れていない。もし社会科学者が人間は人間と生活するという極めて簡単なことに同様の天才を示し・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
出典:青空文庫