・・・ 同志小林多喜二が、日本においてたぐいまれな国際的規模をもつ共産主義作家であったこと、同志小林が常に全力的であり、前進的であり、創作のために寸暇を惜んで刻苦したことは、彼に関する最も断片的な追想の中にさえ読まれた。 貧農の息子、搾取・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・この言葉は左翼運動の他の場面に働く人々の困難、刻苦に比べて作家は同じ世界観の下にあるとはいえ、その日常の暮しは小市民的な安らかさと物質の世俗的な豊かさの可能に置かれ、小説を書いておればいいのだからという、差別的な理解の上に言われた言葉であっ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・の文章の一つ一つについて見れば、それはことごとく刻苦せられている。一字もゆるがせにされておらず、それぞれの切先をもっているものであるが、全篇の効果としては、主題の立体面を余りこまかい網でかぶせてしまい、ついに作品を作者があらわすよりは遙かに・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・東海の封じられた小島としての条件のなかで、我々の祖先の秀抜な人々が、真理を求め、知識をさがして生命の危険さえ冒しながら粒々刻苦して、偶然渡来した医書や物理書の解読や翻訳に献身した努力と雄々しさとは、前野良沢や杉田玄白が日本で最初の解剖書とな・・・ 宮本百合子 「翻訳の価値」
・・・そして十七歳の年からジュリアンの画塾に通いはじめ、最後の七年間、彼女の豊富な情熱の唯一の表現、対象として画家としての刻苦精励がつづけられたのであった。彼女の最後を名誉あらしめた「出あい」は、今日世界名画集からはとりのぞくことのできないリアリ・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・彼らが小さい一冊の本を書くためにも、その心血を絞り永年の刻苦と奮闘とを通り抜けなければならなかった事を思えば、私たちが生ぬるい心で少しも早く何事かを仕上げようなどと考えるのは、あまりにのんきで薄ッぺらすぎます。七 私は才能乏・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫