・・・ 二 ある会社のある工場に新たに就職した若い男が、就職後間もなく誰かから自分の前任者が二人まで夭死をしたこと、その原因がその工場で発生する毒瓦斯のためらしいという話を聞き込んで、ひどく驚きおびえて、少し神経衰・・・ 寺田寅彦 「KからQまで」
・・・先生はその頃もう四十を越えておられ、一見哲学者らしく、前任者とコントラストであった。最初にショーペンハウエルについて何か講義せられたように記憶している。この先生の講義はブッセ教授と異って机に坐ったままで低声で話された。ケーベルさんは始めて日・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・その社としては懐古的な意味をもった催しであったが、主幹に当る人はそのテーブル・スピーチで今日社が何十人かの人々を養って行くことが出来るのも偏に前任者某氏の功績である云々と述べた。今日に当って某誌が日本の文化を擁護しなければならぬ義務の増大し・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
出典:青空文庫