・・・ この事実は、文学の領域には前例のない事件として、当然諸方面から文化統制に対する反対が生じ、二年前プロレタリア文学の退潮、それに引つづく沈滞期に叫ばれたよりはその社会的色調を濃くした現実の姿で文学の危機が再認識された。 文学の本質が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・その懇話会賞も制定され、その名の叢書も刊行され、それらの小説集の表紙には時の農林大臣有馬頼寧の写真が帯封の装飾として使われるという前例のない有様を呈した。 近代及び現代の日本文学の中で、農民文学の占めて来た位置とその消長の跡とは、日本の・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ その解決を求めて、今年のブルジョア文学は前例ないほどドストイェフスキーやバルザック、ゴーゴリなど外国の古典的作品の再検討をとりあげ、明治文学研究も行われた。リアリズムの問題も、プロレタリア文学運動に新たな方向を与えた社会主義的リアリズ・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・部屋でも、塵なく片づいてさえおれば堪能しているのに、この時三輪の花に示した優しさは、前例ないことであった。祖母は御愛素でなくその華々しい薄桃色の草花を愛した。後で、種々枕元に飾ったがどれもそのカアネーション程は気に入らなかった。そして、不満・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 湯浅宮相が女子学習院の卒業式に出席して前例ない峻厳な華族の女の子たちの行紀粛正論をやったということが目立ったぐらいで、敢て道徳問題や親の不取締りとかいう点につき、問題化すものは少く日頃は根掘葉掘りの好きな新聞記者さえ、触れ得ぬ点のある・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ヒットラー政権の下では、自由主義的な芸術家が国外へ追放され、政治的移民としてアムステルダムやパリに住み、世界文学史の上に前例のなかった移民文学を創造している。これらの人々は当然ヒューマニズムの立場にあるのであるが、更に注目すべきことは、ドイ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムの諸相」
・・・の作者、故フールマノフにしろ、ゴーリキイにしろ、前例のない作家の典型である。これらの人々は、ゴーリキイのように終始一貫作家としての活動で歴史の推進に参加し、それを反映すると同時に進む歴史の指導的な力に導かれて偉大な完成を遂げた芸術家、或はフ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・とにかく明治以来の文学史であまり前例のない数の婦人作家たちが文壇に作品を送りその評価を問うたのであったが、それはただちに日本婦人の文化の能力がこの何年間かに異常に高められて来た結果であるといい得るものだろうか。少くとも日本の今日の文学のあり・・・ 宮本百合子 「婦人の文化的な創造力」
出典:青空文庫