・・・だから前回に述べたような現実の心づかいは実にやむを得ない制約なので、恋愛の思想――生粋精華はどこまでも恋愛の法則そのものに内在しているのだ。だからかわいたしみったれた考えを起こさずに、恋する以上は霞の靉靆としているような、梵鐘の鳴っているよ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ここにおいて前回に述べた婦人の社会的関心というものが重要になるのである。一切の婦人は熱心に社会、国家の革新を要請し、そのために協力しなければならないのである。 しばらく社会改革を抜きにして考えるならば、職業と母性愛とをできる限り協定させ・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ 第二 前回は、「その下に書いた苗字を読める位に消してある。」というところ迄でした。その一句に、匂わせて在る心理の微妙を、私は、くどくどと説明したくないのですが、読者は各々勝手に味わい楽しむがよかろう。なかなか、ここは・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・けれども、あの山椒魚の失敗にしても、またこのたびの逸事にしても、先生にとっては、なかなか悲痛なものがあったに違いない、と私には思われてならぬので、前回の不評判にも懲りずに、今回ふたたび先生の言行を記録せむとする次第なのである。先生の失敗は、・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・我輩の下宿の体裁は前回申し述べたごとくすこぶる憐れっぽい始末だが、そういう境界に澄まし返って三十代の顔子然としていられるかと君方はきっと聞くに違いない。聞かなくっても聞く事にしないとこっちが不都合だからまず聞くと認める。ところで我輩が君らに・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・が自己批判して、工場、クラブ内の文学研究会指導方針を変更したことは前回に書いた。 孤立的な余技的趣味への閉じこもりを排撃しろ。 文学研究会員は大衆的に壁新聞、工場新聞へ動員され、活溌な文学活動を通して、勤労者の世界観と自発性とを高め・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 去る四日の公判第一日に、満廷の公訴取消しの要求に対して、一言も発せずじまいだった検事団は、この日の公判廷では、へき頭、勝田主任検事が立って、公訴の適法であることを強調し「もしこの発言にかかわらず前回の如きことが行われる場合は、これに関・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ この次の機会にこそ、日本は漁夫の利をしめるか、さもなければ大漁祝いのわけ前にありついて、前回でものにしそこねた北や南での領土的野心をみたすことができるという潜行的な宣伝が行われている。あれこれと形をかえて、民間にはいりこんでいるもとの・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・はそのようないきさつでの立場が、自然にその人の人生にくみとられて語られている。前回の分とあわせて三十篇近い記録のなかで、戦争に対する抗議が社会の問題としてのひろがりをもって表現されているのは、「愛と戦いと」の結末であった。「茨の道を踏み切っ・・・ 宮本百合子 「「未亡人の手記」選後評」
・・・ちまち選挙違反で検挙されるような代議士の頭数ばかりあつめて、大臣病にきゅうきゅうとしているとき、もし私たち婦人が、心から自分の運命を守ってたち上らないならば、だれが明日の生命を保障してくれるでしょう。前回の総選挙で百万票を得た日本共産党が、・・・ 宮本百合子 「求め得られる幸福」
出典:青空文庫