・・・ 今月は、それこそ一般概論の、しかもただぷんぷん怒った八ツ当りみたいな文章になったけれども、これは、まず自分の心意気を示し、この次からの馬鹿学者、馬鹿文豪に、いちいち妙なことを申上げるその前奏曲と思っていただく。 私の小説の読者に言・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・コーヒーの味はコーヒーによって呼び出される幻想曲の味であって、それを呼び出すためにはやはり適当な伴奏もしくは前奏が必要であるらしい。銀とクリスタルガラスとの閃光のアルペジオは確かにそういう管弦楽の一部員の役目をつとめるものであろう。 研・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・人間の死や家畜の死にはあまりに多くの前奏がある。本文なしの跋だけは考えられないようなものである。 子供らも身動き一つしないで真剣になって見つめていた。こういう事がらを幼少なものの柔らかな頭に焼きつけるという事の利害を世の教育家に聞いてみ・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・のかもしれない。実際からだが妙にぐらぐらしたり、それをおさえようとすると肝心の手のほうががくりと動いたりするのである。 弱い神経と言ってしまえばそれまでの事かもしれないが、問題はこれが「笑い」の前奏として起こる点にある。 舌を出した・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・ とるものもとりあえず新京を脱出した八月九日という日は、十五日より六日も前で、関東軍、役人たちの遁走前奏夜曲であったということを著者は、なにかの思いでこんにち、かえりみるときもあるだろう。新京にいてさえ、一般住民は不意うちをくい、おいて・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・歴史の消長は強い底流れとなっている社会の必然をはなれてあり得ないのだから、よりよい可能が発見される前奏として、もっとも甚しい混乱や紛糾や欠乏が来ることも十分あり得る。そのような歴史の波に、人間が個々の生活者としてうちまかされるか、それともそ・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・貧、富、男、女、層々とした世紀の頁の上で、その前奏に於て号々し、その急速に於て驀激し、その伴奏に於てなお且つ奔闘し続ける、黙示の四騎士はこれである。もしも黙示の彼らが、かかる現前の諸相であると仮定したなら、彼らの中の勝者はいずれであるか。曾・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫