・・・しかし杜九如も前言の手前、如何ともしようとはいわなかった。つまり模品だということを承知しただけに止まって、返しはしなかった。九如のその時の心の中は傍からはなかなか面白く感ぜられるが、当人に取っては随分変なものであったろう。しかしこの委曲を世・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・機乗ずべしとそっと小露へエジソン氏の労を煩わせば姉さんにしかられまするは初手の口青皇令を司どれば厭でも開く鉢の梅殺生禁断の制礼がかえって漁者の惑いを募らせ曳く網のたび重なれば阿漕浦に真珠を獲て言うなお前言うまいあなたの安全器を据えつけ発火の・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・一こと理窟を言いだしたら最後、あとからあとから、まだまだと前言を追いかけていって、とうとう千万言の註釈。そうして跡にのこるものは、頭痛と発熱と、ああ莫迦なことを言ったという自責。つづいて糞甕に落ちて溺死したいという発作。 私を信じなさい・・・ 太宰治 「玩具」
出典:青空文庫