・・・ 今問題の孕の地形を見ると、この海峡は、五万分の一の地形図を見れば、何人も疑う余地のないほど明瞭な地殻の割れ目である。すなわち東西に走る連山が南北に走る断層線で中断されたものである。さらにまたこの海峡の西側に比べると東側の山脈の脊梁は明・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 鐘に血を塗るというのは、本来はおそらく犠牲の血によって物を祭り清めるという宗教的の意義しかなかったのであろうが、しかし特に鐘の割れ目に塗るということがあったとすると、それは何かしら割れ目のために生じた鐘の欠点を補正するという意味があっ・・・ 寺田寅彦 「鐘に釁る」
・・・いくら逃げても追い駆けて来る体内の敵をまくつもりで最後の奥の手を出してま近な二つの氷盤の間隙にもぐり込もうとするが、割れ目は彼女の肥大な体躯を容れるにはあまりに狭い。この最後の努力でわずかに残った気力が尽き果てたか、見る見るからだの力が抜け・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・んねんに当時のままの姿で収集され、そのまま手つかずに保存されていたので、Y教授はそれを全部取り寄せてまずそのばらばらの骨片から機の骸骨をすっかり組み立てるという仕事にかかった、そうしてその機材の折れ目割れ目を一つ一つ番号をつけてはしらみつぶ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・地震の割れ目か、昔の川床か、もっとよく調べてみなければ確かな事はわからない。線にあたった人はふしあわせというほかはない。科学も今のところそれ以上の説明はできない。 震央に近い町村の被害はなかなか三島の比ではないらしい。災害地の人々を思う・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・それで、たとえば理論から出した最大剪断応力の趨向を示す線系が、実物試片のリューダー線や、「目に見える割れ目」とだいたい一致していたとしても、それは言わば偶然であって、必ずしもそうならなければならないというだけの根拠はまだ具備していないのであ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・たとえば本誌の当号に掲載された田口たぐちりゅうざぶろう氏の「割れ目」の分布の問題、リヒテンベルク放電像の不思議な形態の問題、落下する液滴の分裂の問題、金米糖の角の発生の問題、金属単晶のすべり面の発生に関する問題また少しちがった方面ではたとえ・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・ しかし、川の流れをさかのぼって深い谷間の岩の割れ目に源泉を発見した場合にいわゆる源泉の探究はそれで終了したとしても、われわれはその泉の水が決して突然そこで無から創造されたものではなくて、さらに深く地下の闇の中にその出所を追究することが・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・たとえばガラス板を平坦な台の上に置いて上から鉄の球を落として放射線形の割れ目を生ずるという場合に、板の厚さや、球の重量や落下の高さを一定にしてみても、生ずる割れ目の線の数や長さは千差万別であってなかなか一定しない。多数の実験を繰り返せば統計・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
天幕の破れ目から見ゆる砂漠の空の星、駱駝の鈴の音がする。背戸の田圃のぬかるみに映る星、籾磨歌が聞える。甲板に立って帆柱の尖に仰ぐ星、船室で誰やらが欠びをする。 寺田寅彦 「星」
出典:青空文庫