・・・またこの革新的気分と、人生的の感激を有しないセンチメンタリズムが詩を綴っていたら詩の精神を有しないばかりでなく、常に、新生活創始に先駆たるべき文化の精神を、誤るものだということを憚らないのであります。 詩の誤解されていることも久しいけれ・・・ 小川未明 「芸術は生動す」
・・・かならず、よい家を創始するにちがいない。 私がこれから物語ろうと思ういきさつの男女も、このような微笑の初夜を得るように、私は衷心から祈っている。 東京の郊外に男爵と呼ばれる男がいた。としのころ三十二、三と見受けられるが、或いは、もっ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・深く息を吸い、力を込めて、新しい生活を創始しようとする渇仰は、あらゆる今日の女性の胸を貫いて流れているのである。刻々と推移して行く時は、生活の様式に種々の変動を与えて来ただろう。社会組織の一部は、女性を人として生活させる為に変更されようとし・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・而も、発育したい希い、より完美な芸術を創始したい熱情に鞭打たれた場合、少くとも自分は、惨めに焦慮する心持を知っている。それが、如何に統一を破るかも知っている。そのために翻って、どんなに製作に向っての無私が必要だか、意識下の均衡が大切だか思い・・・ 宮本百合子 「透き徹る秋」
・・・それは、遠い昔、政治的思想的に紛糾を重ねた欧州の故国を去って、未開の新土に生活を創始しようと覚悟した程のものは、皆、何等かの意味に於て、強い箇人の自覚と、何物にも屈しない独立心を備えていたからなのです。 アメリカと云っても、往古の状態は・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・新たな恋愛価値の創始、人格の飛躍が、一方、色情狂めいた性的好奇心の横行とともに、今日の社会には到るところに叫ばれていると思うのである。 けれども、翻ってそれを聞きその影響を受けようとする大多数の男性女性は、事実に於て今日如何なる生活を営・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・一つは、左翼的な或る作家の経験であるが、そのA氏は日本の企業界で歴史的に有名な或る会社の現実を、芸術に描こうと発意し、日本の実業家列伝中でも巨星であるその会社の創始者のやりかたなどを定型的資本家の観念で考えていた。創作の準備がすすむにつれ実・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・我が番組編成の指導方針は事業創始当初より一貫して神ながらの我が国民精神の涵養を基調とし日本文化の普遍と向上を期するにあるのは云う迄もない所である」とされている。指導方針によって放送審議会がこの大綱を定め、中継番組は放送編成会が働き、ローカル・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・麦積山の創始の時代、すなわち五世紀から六世紀へかけての時代には、中央アジアはまだあまり荒廃せず、盛んな文化創造をやっていたはずである。従ってあの地方の諸都市に、ちょうどそのころガンダーラからアフガニスタンへかけて栄えていた塑像の技術が伝わっ・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫