坪内君の功労は誰でも知ってる。何も特にいわんでも解ってる。明治の文学の最も偉大なる開拓者だといえばそれで済む。福地桜痴、末松謙澄などという人も創業時代の開拓者であるが、これらは鍬を入れてホジクリ返しただけで、真に力作して人跡未踏の処女・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・ ――きょう、みなさまの食堂も、はばかりながら創業満三箇年の日をむかえました。それを祝福する内意もあり、わずかではございますが、奉仕させていただきたく存じます。 その奉仕の品品が、入口の傍の硝子棚のなかに飾られている。赤い車海老はパ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・文化年間に至って百花園の創業者佐原菊塢が八重桜百五十本を白髭神社の南北に植えた。それから凡三十年を経て天保二年に隅田村の庄家阪田氏が二百本ほどの桜を寺島須崎小梅三村の堤に植えた。弘化三年七月洪水のために桜樹の害せられたものが多かったので、須・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・その創業わずかに五、六年に過ぎざれども、すでにその通用の政体をなせば、たとい政府の力をもって前の四ツ手駕籠に復古せんとするも、決してよくすべからず。 また今の学者を見るに、維新以来の官費生徒はこれを別にし、天保年間より、漢学にても洋学に・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ただし、君は旧幕府の末世にあたりて乱に処し、また維新の初において創業に際したることなれば、おのずから今日の我々に異なり。我々は今日、治世にありて乱を思わず、創業の後を承けて守成を謀る者なり。時勢を殊にし事態を同じゅうせずといえども、熱心の熱・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・この俳句はその創業の功より得たる名誉を加えて無上の賞讃を博したれども、余より見ればその賞讃は俳句の価値に対して過分の賞讃たるを認めざるを得ず。誦するにも堪えぬ芭蕉の俳句を註釈して勿体つける俳人あれば、縁もゆかりもなき句を刻して芭蕉塚と称えこ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫