・・・勿論その句境も剽窃した。「癆咳の頬美しや冬帽子」「惣嫁指の白きも葱に似たりけり」――僕は蛇笏の影響のもとにそう云う句なども製造した。 当時又可笑しかったことには赤木と俳談を闘わせた次手に、うっかり蛇笏を賞讃したら、赤木は透かさず「君と雖・・・ 芥川竜之介 「飯田蛇笏」
・・・「これはゲエテの『ミニヨンの歌』の剽窃ですよ。するとトック君の自殺したのは詩人としても疲れていたのですね。」 そこへ偶然自動車を乗りつけたのはあの音楽家のクラバックです。クラバックはこういう光景を見ると、しばらく戸口にたたずんでいま・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・ Pirate という言葉は、著作物の剽窃者を指していうときにも使用されるようだが、それでもかまわないか、と私が言ったら、馬場は即座に、いよいよ面白いと答えた。Le Pirate, ――雑誌の名はまずきまった。マラルメやヴェルレ・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・万事窮して、とうとう悪事をたくらんだ。剽窃である。これより他は、無いと思った。胸をどきどきさせて、アンデルセン童話集、グリム物語、ホオムズの冒険などを読み漁った。あちこちから盗んで、どうやら、まとめた。 ――むかし北の国の森の中に、おそ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・それにつけて私は、ラスキンが「剽窃」の問題について論じてあった事を思い出して、も一度それを読んでみた。その最後の項にはこんな事が書いてあった。「一般に剽窃について云々する場合に忘れてならないのは、感覚と情緒を有する限りすべての人は絶えず・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・ 文学上の作品などでも、よくこれに類した「剽窃問題」が持ち上がる事がある。大文豪などはほとんど大剽窃家である。 哲学者科学者皆そうである。アリストテレースなどは贓品の蔵を建てた男である。仕事が大きいほど罪も深い。 ダーウィンが彼・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 六 昔、ラスキンが人から剽窃呼ばわりをされたのに答えて、独創ということも、結局はありったけの古いものからうまい汁を吸って自分の栄養にしてからの仕事だというような意味のことを言った。 蕪村は「諸流を尽くしこれを一・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・成島柳北が仮名交りの文体をそのままに模倣したり剽窃したりした間々に漢詩の七言絶句を挿み、自叙体の主人公をば遊子とか小史とか名付けて、薄倖多病の才人が都門の栄華を外にして海辺の茅屋に松風を聴くという仮設的哀愁の生活をば、いかにも稚気を帯びた調・・・ 永井荷風 「夏の町」
・・・何某という軍医、恙の虫の論に図など添えて県庁にたてまつりしが、こはところの医のを剽窃したるなり云々。かかることしたり顔にいい誇るも例の人の癖なるべし。おなじ宿に木村篤迚、今新潟始審裁判所の判事勤むる人あり。臼井六郎が事を詳に知れりとて物語す・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫