・・・私の目に狂いはなく、きのうも某劇作大家の御面前にて、この自慢話一席ご披露して、大成功でございました。叱られても、いたしかたございません。以後、決して他でお噂申しませぬゆえ、此のたびに限り、御寛恕ください。とんだところで大失敗いたしました。さ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・自然に生活の中にあるが儘に演出することがチェホフの劇作の力点であった。――ラネフスカヤは成功した。 ロパーヒンの成功も私は同じ理由だと思う。彼はラネフスカヤと玉突好きのあまりに紳士的な兄とに、桜の園を別荘地に開放することを頻りにすすめる・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・京都生れの武士であった近松は、当時崩れゆく武家の経済事情に押し流されて、いくつかの主家を転々した末は浪人して、歌舞伎の大成期であったその時代から辛苦の多い劇作家の生活に入った。芭蕉よりは十歳以上若い彼は、やはり同じ時代の芸術家らしい現実的、・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫