・・・『忘れ得ぬ人は必ずしも忘れてかなうまじき人にあらず、見たまえ僕のこの原稿の劈頭第一に書いてあるのはこの句である。』 大津はちょっと秋山の前にその原稿を差しいだした。『ね。それで僕はまずこの句の説明をしようと思う。そうすればおのず・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・また、劈頭の手紙の全文から立ちのぼる女の「なま」な憎悪感に就いては、原作者の芸術的手腕に感服させるよりは、直接に現実の生ぐさい迫力を感じさせるように出来ています。このような趣向が、果して芸術の正道であるか邪道であるか、それについてはおのずか・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・思っていたが、実に思いがけなく今明治四十四年の劈頭において、我々は早くもここに十二名の謀叛人を殺すこととなった。ただ一週間前の事である。 諸君、僕は幸徳君らと多少立場を異にする者である。僕は臆病で、血を流すのが嫌いである。幸徳君らに尽く・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・「劈頭第一に小言を食わせるなんぞは驚いたね。気持の好い天気だぜ。君の内の親玉なんぞは、秋晴とかなんとか云うのだろう。尤もセゾンはもう冬かも知れないが、過渡時代には、冬の日になったり、秋の日になったりするのだ。きょうはまだ秋だとして置くね・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・「安井では仲平におよめを取ることになりました」劈頭に御新造は主題を道破した。「まあ、どこから」「およめさんですか」「ええ」「そのおよめさんは」と言いさして、じっとお豊さんの顔を見つつ、「あなた」 お豊さんは驚きあきれ・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫