・・・したがって普通の場合には功罪が帳消しになって余す所は棒だけになります。いくら藤村の羊羹でもおまるの中に入れてあると、少し答えます。そのおまるたると否とを問わず、むしゃむしゃ食うものに至っては非常稀有の羊羹好きでなければなりません。あれも学才・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・これを典して彼を買う、その功罪相償うや否や、容易に断定すべき問題にあらざるなり。 或はいう、王政維新の成敗は内国の事にして、いわば兄弟朋友間の争いのみ、当時東西相敵したりといえどもその実は敵にして敵にあらず、兎に角に幕府が最後の死力を張・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ドイツの国民性を解剖し、ワイマール共和国の功罪を論じ、一知識人の日記の形でナチス運動の発展のあとをたどり、ナチス以外のドイツが、ヒトラー打倒のためにどうたたかっているかを訴えた。「野蛮人の学校」では、ナチス治下の教育が、どんなにドイツの少年・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ こんにち、ジャーナリズムの功罪は、ひとごとでなくなった。どうせジャーナリズムはますます大資本の独占的企業になりつつあるのだから、と素朴に反発するだけではすまされない。なぜなら日本のわたしたち全人民の生活は大資本の国際的な企業のあみめに・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・ ジャーナリズムは夥だしい功罪ともども読者を捕えてゆくのではあるが、そのためには読者の人間的社会的意欲の動向を敏活にとらえ反映して展開させなければジャーナリズムは実利上にも成立たない。ここに、現代ジャーナリズムに対する読者の声、要求の深・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
出典:青空文庫