・・・産党は、いやに調子づいてはしゃいでいるけれども、これはまた敗戦便乗とでもいうのでしょうか、無条件降伏の屍にわいた蛆虫のような不潔な印象を消す事が出来ず、四月十日の投票日にも私は、伯父の局長から自由党の加藤さんに入れるようにと言われていたので・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・三河国渥美郡福江村加藤平作……と読む声が続いて聞こえた。故郷のさまが今一度その眼前に浮かぶ。母の顔、妻の顔、欅で囲んだ大きな家屋、裏から続いた滑らかな磯、碧い海、なじみの漁夫の顔……。 二人は黙って立っている。その顔は蒼く暗い。おりおり・・・ 田山花袋 「一兵卒」
大正十二年八月二十四日 曇、後驟雨 子供等と志村の家へ行った。崖下の田圃路で南蛮ぎせるという寄生植物を沢山採集した。加藤首相痼疾急変して薨去。八月二十五日 晴 日本橋で散弾二斤買う。ランプの台に入れるため。・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・風俗画報社の『新撰東京名所図会』もまた『江戸繁昌記』を引きこれを補うに加藤善庵が『墨水観花記』を以てしている。わたくしは塩谷宕陰の文集に載っている「遊墨水記」を以て更にこれを補うであろう。 静軒の文は天保に成ったもの、宕陰の記は慶応改元・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・太功記の色彩などははなはだ不調和極まって見えます。加藤清正が金釦のシャツを着ていましたが、おかしかったですよ。光秀のうちは長屋ですな。あの中にあんな綺麗な着物を着た御嫁さんなんかがいるんだから、もったいない。光秀はなぜ百姓みたように竹槍を製・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・尤も厚い独逸書で、外国にいる加藤恒忠氏に送って貰ったもので、ろくに読めもせぬものを頻りにひっくりかえしていた。幼稚な正岡が其を振り廻すのに恐れを為していた程、こちらは愈いよいよ幼稚なものであった。 妙に気位の高かった男で、僕なども一緒に・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
要件 四月二十六日一、出版プランについて党でとり上げるにしろ、イニシアは加藤が自分でとったものと感じていることを十分念頭におく必要があるでしょう。 きのうも「共産党の婦人部がどう思ったってかまわな・・・ 宮本百合子 「往復帖」
・・・ たとえば新交響楽団の演奏会のおりおり、ハープの弾奏者として舞台に現れる加藤泰通子夫人があります。日本に演奏者の少いハープがこの夫人の趣味にかなったことから稽古をはじめられたでしょう。はじめは全く生活に余裕ある夫人のよい一つの仕事であっ・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・婦人民主クラブの成立に関係をもった幾人かの婦人が話をした。加藤シズエ夫人もその一人だった。もうそのころ立候補がきまっていた夫人は、婦人と政治的自覚について話し、彼女の見たアメリカの選挙を手本とした。民主的な議会政治では議席を多くしめる政党が・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・きょうはお目にかかるつもりで出かけたところが、生憎加藤氏がお休みをおとりになっているので都合がつかず残念をいたしました。なかなか暑気が厳しいがいかがですか。盗汗は出ませんか。熱は? きょう中川によって昨今のまま一ヵ月お弁当をつづけておきまし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫