・・・何をするにも、努力とか勉強とか云うことをしたことがない。そのくせ人に取り入ろうと思うと、きっと取り入る。決して失敗したことがない。 この二人は大抵極まった隅の卓に据わる。そしてコニャックを飲む。往来を眺める。格別物を考えはしない。 ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・苦しいには違いないが、さらに大なる苦痛に耐えなければならぬと思う努力が少なくともその苦痛を軽くした。一種の力は波のように全身に漲った。 死ぬのは悲しいという念よりもこの苦痛に打ち克とうという念の方が強烈であった。一方にはきわめて消極的な・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・若いものは暇な時間でも強い興奮努力を経験している。何故と云えば、彼等は全世界を知覚し認識し呑み込まなければならないから。」「時間を減らして、その代りあまり必須でない科目を削るがいい。『世界歴史』と称するものなどがそれである。これは通例乾・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・僅一行の数字の裏面に、僅か二位の得点の背景に殆どありのままには繰返しがたき、多くの時と事と人間と、その人間の努力と悲喜と成敗とが潜んでいる。 従ってイズムは既に経過せる事実を土台として成立するものである。過去を総束するものである。経験の・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・しかし我々は単に俳句の如きものの美を誇とするに安んずることなく、我々の物の見方考え方を深めて、我々の心の底から雄大な文学や深遠な哲学を生み出すよう努力せなければならない。我々は腹の底から物事を深く考え大きく組織して行くと共に、我々の国語をし・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・ 私は悪夢の中で夢を意識し、目ざめようとして努力しながら、必死にもがいている人のように、おそろしい予感の中で焦燥した。空は透明に青く澄んで、充電した空気の密度は、いよいよ刻々に嵩まって来た。建物は不安に歪んで、病気のように瘠せ細って来た・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・だのに、今、二人の十になる子供は、その父親の首へしがみついて、夕食の席へ連れ帰ろうとでもするように起そうとして努力していた。 が、秋山も小林も、決して、その逞しい足を動かし、その手を延ばそうとはしなかった。僅に、滅茶苦茶に涙を流しながら・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・尤も老人病弱者にても若し肉食を嫌うものがあればこれに適するような消化のいい食品をつくる事に就ては私共只今充分努力を致して居るのであります。仮令ば蛋白質をば少しく分解して割合簡単な形の消化し易いものを作る等であります。 第二に食事は一つの・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・の風景的生活的特色、東京の裏町の生活気分を、対比してそれぞれを特徴において描こうとしているところ、又、主人公おふみの生きる姿の推移をその雰囲気で掴み、そこから描き出して行こうとしているところ、なかなか努力である。カメラのつかいかたを、実着に・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・そしてその手紙の要点を掴まえようと努力した。手紙の内容を約めて見れば、こうである。政治は多数を相手にした為事である。それだから政治をするには、今でも多数を動かしている宗教に重きを置かなくてはならない。ドイツは内治の上では、全く宗教を異にして・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫