・・・しかし少しも効験は見えない。のみならず次第に衰弱する。その上この頃は不如意のため、思うように療治をさせることも出来ない。聞けば南蛮寺の神父の医方は白癩さえ直すと云うことである。どうか新之丞の命も助けて頂きたい。………「お見舞下さいますか・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・僕の追窮するのは即座に効験ある注射液だ。酒のごとく、アブサントのごとく、そのにおいの強い間が最もききめがある。そして、それが自然に圧迫して来るのが僕らの恋だ、あこがれだと。 こういうことを考えていると、いつの間にかあがり口をおりていた。・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・もちろんこの効験は偶然の方則に支配されるのである。「丸葉柳」のほうはどんな物だか、何に使うのか、それについては自分の記憶も知識も全然空白である。 売り声の滅びて行くのは何ゆえであるか、その理由は自分にはまだよくわからないが、しか・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・赤犬の肉は黴毒の患者に著しい効験があると一般に信ぜられて居るのである。太十は酷く其胸を焦した。五 次の日に懇意な一人が太十の畑をおとずれた。彼は能く来た。そうして噺が興に乗じて来る時不器用に割った西瓜が彼等の間に置かれるので・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・その効験の著しきは「モルヒネ」の劇痛におけるが如きものあらんといえども、今年今月の農工商をふるわしめんとて、にわかにその教育の組織を左右すればとて、何の効を奏すべきや。またあるいは天下の人心が頑冥固陋なり活溌軽躁なりとて、その頑冥軽躁の今日・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・野菜の類は肥料を受けて三日、すなわち青々の色に変ずといえども、樹木は寒中これに施してその効験は翌年の春夏に見るべきのみ。 いま人心は草木の如く、教育は肥料の如し。この人心に教育を施して、その効験三日に見るべきか。いわく、否なり。三冬の育・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・恐らく日に幾人となく、そういう女や男に会う×は、十人が九人迄にそうやって、出世祝いの護符のような文句を与えているのだろう。効験をためすのは将来のことだ。今、彼女が必要なのは明日から住居と食物を与える職業だ。言葉数をきかないが、千鶴子が心でど・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・そろそろ貴女のお力の効験が現れて来ました。災厄が余り突然やって来たので、人間の微妙な精神の歯車も大分痛められました。あれほど感情の鋭い者達が、本当に涙もこぼさず、獣のように狂い喚いていた有様は思い出しても恐ろしいが。――御覧下さいこれは、始・・・ 宮本百合子 「対話」
出典:青空文庫