・・・懸想されたるブレトンの女は懸想せるブレトンの男に向って云う、君が恋、叶えんとならば、残りなく円卓の勇士を倒して、われを世に類いなき美しき女と名乗り給え、アーサーの養える名高き鷹を獲て吾許に送り届け給えと、男心得たりと腰に帯びたる長き剣に盟え・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・言はばニイチェは、師匠の仇敵を討つた勇士のやうなものである。文部省の教科書でも、ニイチェは大に賞頌して書かれねばならない。 最後に、僕自身のことを話さう。僕はショーペンハウエルから多くを学んだ。僕の第二詩集「青猫」は、その惑溺の最中・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・軍が平壌を包囲した時、彼は決死隊勇士の一人に選出された。「中隊長殿! 誓って責務を遂行します。」 と、漢語調の軍隊言葉で、如何にも日本軍人らしく、彼は勇ましい返事をした。そして先頭に進んで行き、敵の守備兵が固めている、玄武門に近づい・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ たとえば少年の勇士が死を決して自から快と称する者あれども、その快たるや、ただ絶命のみをもって快とするに非ず。その時の事情をいえば、本人の心に企つるところの事は大に過ぎて、これに応ずべき自己の力は小にして足らず、その大小の平均を得るに路・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ほんとうにこんなような蝎だの勇士だのそらにぎっしり居るだろうか、ああぼくはその中をどこまでも歩いて見たいと思ってたりしてしばらくぼんやり立って居ました。 それから俄かにお母さんの牛乳のことを思いだしてジョバンニはその店をはなれました。そ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 教壇の未亡人 勇士の未亡人で、新しい生活の道を教壇に見出したひとたちが、いよいよ一ヵ年の師範教育を終えて、九段の対面もすました。 百数十名のこれらの健康な夫人たち若い母たちが、子供と共に経験したこの一年に・・・ 宮本百合子 「女性週評」
・・・それだからこそ、勇士と生れついていないすべてのおとなしい平凡な人々さえも、生存の必要に当って英雄でありうるのだともいえる。すべての女性が生みの痛苦に耐えうるように。しかし個々の意識人の人生において、経験は蓄積されなければならず、批判・発展が・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・が戦場の勇士よりも、ある場合にはより勇気ある武士とされた理由である。 日本の人民は、東條時代を通じて、もっとも非合理野蛮な侵略主義者の善と悪との規準で支配されてきた。「聖戦」に対して、いくらかでも疑問をもち、侵略行為の人類的悪についてほ・・・ 宮本百合子 「地球はまわる」
・・・ この時代に、世界は文学の分野において誇るに足る二人の勇士をもっている。ロマン・ローラン、マクシム・ゴーリキイの二人である。 これらの人々は、いずれも自分の遭遇した時代の種々さまざまな矛盾をもっとも偽りない心で悩みつつ頑強に人類の幸・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・ってたのに やっぱり家のことや何かでやめてしまったのが幾人もある、――ちゃんと四年をしまうのは 何%位ある――たった二十五%――ルナチャルスキーがラブ・ファクを終った青年は最も賞讚さるべき勇士だと云った これは本当。三十五留貰い・・・ 宮本百合子 「無題(七)」
出典:青空文庫