・・・ わが国で年々火災のために灰と煙になってしまう動産不動産の価格は実に二億円を超過している。年々火災のために生ずる死者の数は約二千人と見積もられている。十年たてば二十億円の金と二万人の命の損失である。関東震災の損害がいかに大きくてもそれは・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・借家だときいて一時に索然とした表情になったが、思い直して動産保険をすすめた。そのとき、東京市内で保険率の少い区の名を云った。本郷や上落合はその中にこめられていた。保険には入らなかったが、保険率のやすいところ、つまり火事が伝統的に少いところと・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・十五億九千万円の動産と百三十五万町歩の土地とをもつ日本の君主は、この波瀾万丈の日本全土を巡って、自身の宣戦によって戦争が引起され、全人民の生活が破壊されている光景を前に、人民投票をさせようとしている。 生きようと欲するのは男だけの希望で・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫