・・・ 五 あらゆる社会現象の理解のために、そして文学の正常な進展のためには、現代の歴史的な性格というものが動的につかまれなければならないわけだろう。その意味で、今日の文学の感覚の中で歴史性というものはどう見られ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・能動的精神といい、ヒューマニズムといい、それぞれ熱心に討論されたのではあったろうが、社会全般の中で見ればやはり文壇をめぐっての抽象的な専門家間の論議に終っていたことである。この一二年来、日本の大衆の日常生活と生活感情とは、少なからずショック・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・主人公が父平助でなくて息子荘太郎であるということからは、作者が平助の側からその心理を叙しているよりもさらに描写に骨の折れる動的な葛藤、摩擦、若き精神の懊悩が小説の世界へ溢れでてくる。悲劇の最後で、失われる命が父平助のものであるにしろ、他のも・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・で、著者は過去の理解が、現実の歴史との関係で文学史を静的なものとし、批評を動的なものとして区別をもったまま止っていた誤りを訂して、両者の職能を密接な関連のもとに統一することをこそ、批評の本質が批評家に求めているものとしてみている。こういうも・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ 現実を、その動的関係の中で把握しては、詩としての美が失われるのだと主張する人がある。そういうものだろうか? ほんとうにそう思うといえるのだろうか? 一九四五年の春、世界をどよもした叙事詩は、その人にとって美でなかったとすれば愕くべきこ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ロマン・ローランが我々の人間の精神上の幸、不幸の原因についてこの点にまで切りこんで行ったことはさすがに敬服に価する態度であるが、我々に負わされている肉体の健康、不健康の問題をもう一歩進んで動的なものと理解せず、どちらかと云えば個人的に宿命的・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・一名、動的生活。球の皮と皮との継ぎ目には“К”とスタンプが押してある。 一ヵ月経った。モスクワの春がむら気に近づいてきた。雪がひどく降った。 雪の中を私はいつも変らぬ我が道伴れとともに借室を見に行った。そこから日本大使館へ廻った。本・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・この作品が道具立てとしてはさまざまの社会相の面にふれ、アクつよきものの諸典型を紹介しようと試みつつ、行間から立ちのぼって最後に一貫した印象として読者にのこされるものは、ある動的なもの、強靭で、肺活量の多いものを求めている作者の主観的翹望であ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ルネッサンスは婦人の人間性も解放したけれどもその人間性は、デスデモーナにおいて、どんなにまで受動的であり、分別が不たしかであやうげなものだろう。私達の今日の常識でいえば、非常に大事なハンカチーフをなくした場合は、貴方からいただいたハンカチー・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・ 政治的成長というものは、いってみればそのような撞着的事象の本体を洞察して、その間から何か積極的な合理的な人間生活建設の可能をとらえてゆく動的な生活的叡智、行動にほかならないのであろうと思う。そして、ある場合には、婦人の真の政治的な成熟・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫