・・・いくら三千人からの争議団とは云え、利平たちから考えれば、あまりにもその勝敗は知れきっていた。「争議が済んだら、俺が貰い下げに行ってやろう?」 そしたら奴らどんな顔するだろう。 彼は、何だか、眼前が急に明るくなったように感じられた・・・ 徳永直 「眼」
・・・海陸軍中一、二の文人あるも、戦場の勝敗に関すべきに非ず。あるいは学者文人に諮問の要もあらば、その時にしたがいてこれに問うこと、はなはだ易し。国の大計より算すれば、年金の法、決して不経済ならざるなり。 帝室より私学校を保護し、学者を優待す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 左れば自国の衰頽に際し、敵に対して固より勝算なき場合にても、千辛万苦、力のあらん限りを尽し、いよいよ勝敗の極に至りて始めて和を講ずるか、もしくは死を決するは立国の公道にして、国民が国に報ずるの義務と称すべきものなり。すなわち俗にいう瘠・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ベースボールの勝負 攻者は一人ずつ本基より発して各基を通過し再び本基に帰るを務めとす、かくして帰りたる者を廻了という。ベースボールの勝敗は九勝負終りたる後ち、各組廻了の数の総計を比較し多き方を勝とするなり。例えば「八に対する二十三の勝」とい・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・画中の女、戦の勝敗を知らず。 書簡註。この頃シベリアは郵便物が通れず通信すべてアメリカ経由でされている。このハガキは東京へ八月二十七日着している。殆ど四十日かかって、ハーフディンバアの沙翁の家の写真が母の許についたわけ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・現に菊池寛が書いている連載小説「勝敗」の中では一回分がフランス化粧料の名、ヨーロッパ画家の名その他で埋められた日があった。 ブルジョア探偵小説の一部としてのスパイ物語は正に国際的舞台を背景としている。中河与一の南洋紀行。吉行エイスケの中・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・ 詳細にみると、映画においてはその技術的前進に語られている人間の勝利と、その技術をもって語る作品内容の社会的相貌、人間性の勝敗の様との間に常に鋭い歴史性を反映するギャップがある。そのギャップを原則的にうずめ得る文化をもつ国は例外であって・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・それは、予備条件として在来の社会機構から生じた各個人間の極く平俗な生存競争の必然を認めつつ、だが、窮極のところ、人生の意義というものは、人間対人間の目前の勝敗にあるのではない、「持って生れたものを誤らないように進めてゆく、それが修業」であり・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・ 二十世紀の現代においては、理性がいかに永続的に、且つ現実的に操作されうるかという能力にこそ、歴史の勝敗がかかっている。理性擁護の行動そのものがもし万一にも性急で持久性を欠くならば、そのような行動の方式は、理性の本質にとって適切でな・・・ 宮本百合子 「若き僚友に」
・・・そうなると今対峙している敵味方の間の勝敗などは、どうでもよくなってしまう。今までの軍国主義者や愛国狂は顔を蒼くしてすみの方へ引き込んで行く。その代わり、英、独、仏、露、敵味方各国の人民はお互いに暖かい情をもって手を握り合い、お互いの民族の優・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫