・・・に対する批評に向って反駁的、勝者的気分で書かれている同氏の「悪作家より」でその気分は極めて率直と云えば率直、高飛車と云えば高飛車に云われているのである。 石坂氏のように、さア、返事はどうだというような気持も、主観的には壮快なるものがある・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・生あるものは総てかく低唱しつつ厚き帳のかなた身じろぐ夜の精を見んと行手すかしつつさぐり見るなり無限の闇の広き宙には乾坤の敗者の歎きと勝者の鬨の声と石棺の底より過去を叫ぶ亡霊のうごめき奇しき形に其の音波・・・ 宮本百合子 「夜」
・・・もしも黙示の彼らが、かかる現前の諸相であると仮定したなら、彼らの中の勝者はいずれであるか。曾て敗北せる者は貧であった。女性であった。今やその隠忍から擡頭せるものは彼らである。勝利の盃盤は特権の簒奪者たる富と男子の掌中から傾いた。しかし吾々は・・・ 横光利一 「黙示のページ」
出典:青空文庫