・・・例えば、支店長募集のあの思いつきにしろ、新聞広告にしろ、たいていの智慧はみな此のおれの……。まあ、だんだんに、聴かせてやろう。 二 いつだったか、……いや、覚えている、六年前のことだ、……「川那子丹造の真相をあば・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・南方派遣日本語教授要員の募集の記事が、ふと眼に止ったのである。「南方へ日本語を教えに行く人を募集しているのだわ。」 と、呟きながら読んで行って、「応募資格ハ男女ヲ問ハズ、専門学校卒業又ハ同程度以上ノ学力ヲ有スル者」という個所まで来る・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・苦学というからには募集広告の講談社的な偽瞞にひっかかったのにちがいない。それにしても死ぬまで東京にいるとは! おそらく死に際の幻覚には目にたてて見る塵もない自分の家の前庭や、したたり集って来る苔の水が水晶のように美しい筧の水溜りが彼を悲しま・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・新聞に支那の洪水の義捐の募集が出ている。手袋を買ってやる金を新聞社に送るべきか。リップスによればそうすべきだ。しかし一方はわが子で目の前に見、他方は他国でうわさに聞くのみ。情緒の上には活々とした愛と動機力は無論幼児の手袋を買ってやる方にはた・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ メリヤス工場の職工募集員は、うるさく、若者や娘のある家々を歩きまわっていた。三 トシエは、家へ来た翌日から悪阻で苦るしんだ。蛙が、夜がな夜ッぴて水田でやかましく鳴き騒いでいた。夏が近づいていた。 黄金色の皮に、青味・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・いっそ、懸賞募集を狙いましょうか。黙ってる方がかしこいでしょう。然し、太宰治さん、できたら、ぼくに激励のお手紙を下さい。もう四日出勤して五日も経てば、ぼくは腐りの絶頂でしょう。今晩は手紙を書くのがイヤです。明晩明後日と益々イヤになるでしょう・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 自分もどこかの煙突の上に登って地震国難来を絶叫し地震研究資金のはした銭募集でもしたいような気がするが、さてだれも到底相手にしてくれそうもない。政治家も実業家も民衆も十年後の日本の事でさえ問題にしてくれない。天下の奇人で金をたくさん持っ・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・ 最後に一個の希望として、来年あたりから二科会で日本画も募集する事にしたらおもしろいだろうと思う。ただし従来いわゆる日本画の教養を受けた人は出品の資格がないという事にして――これはコントロールがむつかしいかもしれないが――そうして新しい・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・可憐な都会の小学児童まで動員してこの木枯しの街頭にボール箱を頸にかけての義捐金募集も悪くはないであろうが、文化的国民の同胞愛の表現はもう少し質実にもう少しこくのあるものであってもよいと思われる。肺炎になってしまってからの愛児の看護に骨を折る・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ 学生の有志の見学団で毎週のようにいろいろの見学参加募集をする。その広告が大学の玄関に貼り出される。当時は世界第一であったナウエンの無線電信発信所を見物したのもこの見学団の一員としてであった。テレフンケン・システムの大きな蛇のようなスパ・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
出典:青空文庫