・・・子供はもう皆な奥で寝てしまって、二つになる末の子だけが、母親の乳房に吸いついた。勤め人の主は、晩酌の酔がまださめず、火鉢の側に胡座をかいて、にやにやしていた。「どうして未だなかなか。」「七十幾歳ですって?」「七十三になりますがね・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・自由な服装の色どりをしめし、野外の風にふかれる肌の手入れを指導しているけれども、サンマー・タイムの四時から五時、ジープのかけすぎる交叉点を、信号につれて雑色の河のように家路に向って流れる無数の老若男女勤め人たちの汗ばんだ皮膚は、さっぱりお湯・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
十一月号の『中央公論』に「杉垣」という短篇を書いた。その評の一つとして武田麟太郎氏の月評が『読売新聞』に出ているのを読んだ。「勤め人夫婦が激動する時代の波濤の中でいかに理性的に生くべきかを追究する次第を叙し」「各人物の・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・一人の市民が勤め人として勤め先の機械性、非人間的仕くみに苦しみ、人間として自分の一生をしみじみと思いめぐらすとき、昨日までのわたしたちの文学は、その苦悶を限度として止らなければならなかった。けれども、今日、その勤人はおそらく組合をもっている・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ところが、ソヴェトの家族の場合は、父親が工場へ行ったり勤め人だったら、労働組合に属している、それから息子も勤めているから労働組合に属している、娘も勤めて組合に属している、三人とも組合に属している。その上教育中の息子と娘とは有給の専門教育をう・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・一九二九年からは労働者、勤め人、農民という風な人別手帳で何でも買うことになっている。ところでソヴェト同盟は五ヵ年計画で農産物の生産額をウント増し、一人当りの肉、パン、卵、野菜、バタなどの消費量を高めよう――つまりもっともっとプロレタリアート・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・労働者及び勤め人、そういうものは自分達の職業組合を通じて切符を半額で貰う。或る場合は全然只で貰う。 それで劇場は必ずいつでも何割かを職業組合のために場所を取っている。あとの我々みたいな外国人は、窓口へ行って、そこに書いてあるだけの金でも・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・が説明によって理解したところでは、民主革命の推進力である労働者階級を主軸としてその同盟者としての農民、勤め人、中小商工業者、近ごろはアルバイトの必要から勤労生活にとけこみつつある学生、これらを概括して「勤労者文学」の基盤とするといわれたよう・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・ 独身で勤め人の小枝子が加わると、話題もおのずからひろがって、三人の女は手や足先を動かしながら、その後援会に二人が加わっている女優の演じた田舎の庄屋のおかみさんが粋すぎたなどという話も出た。仕上げミシンの急所のところで、多喜子が、「・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・* ソヴェト同盟は当時、すべての学校に先ず労働者の子供らを入れ、農民の子供を入れ、勤め人の子を収容した。ツァー時代のブルジョア・地主の子等は学校に入れなかった。そのことについて「真理の擁護者マクシム・ゴーリキイ」に対する「哀れなる少年の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫