・・・ もっと利子の安い勧業銀行へ人を頼んであたってみたりした。 だが、ある日、春だった。「うまいことになったわい。」親爺は、いき/\と、若がえったように、すた/\歩いて帰ってきた。彼は、やはり朴訥な、真面目な調子で云った。「今度、K・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・それを弥が上にもアコギな掘出し気で、三円五十銭で乾山の皿を買おうなんぞという図ずうずうしい料簡を腹の底に持っていたとて、何の、乾也だって手に入る訳はありはしない。勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・明治十年に至って始て内国勧業博覧会がこの公園に開催せられた。当時上野なる新公園の状況を記述するもの箕作秋坪の戯著小西湖佳話にまさるものはあるまい。 箕作秋坪は蘭学の大家である。旧幕府の時開成所の教官となり、又外国奉行の通訳官となり、両度・・・ 永井荷風 「上野」
出典:青空文庫