・・・同じく祭りのための設けとは知られながら、いと長き竿を鉾立に立てて、それを心にして四辺に棒を取り回し枠の如くにしたるを、白布もて総て包めるものありて、何とも悟り得ず。打見たるところ譬えば糸を絡う用にすなるいとわくというもののいと大なるを、竿に・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・びがたき敵意、あの小説は、なんだい、とてんから認めていなかったのだから、うまく折合う道理はなし、或る日、地平は、かれの家の裏庭に、かねて栽培のトマト、ことのほか赤く粒も大なるもの二十個あまり、風呂敷に包めるを、わが玄関の式台に、どさんと投げ・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ 旅商人の脊に負える包の中には赤きリボンのあるか、白き下着のあるか、珊瑚、瑪瑙、水晶、真珠のあるか、包める中を照らさねば、中にあるものは鏡には写らず。写らねばシャロットの女の眸には映ぜぬ。 古き幾世を照らして、今の世にシャロットにあ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫