・・・ダカラ甘く天地を包含したようの事を示せるのサ。又人間の心をもイヤに西洋の奴らは直線的に解剖したがるから、呆れて物がいえない、馬鹿馬鹿しい折詰の酢子みたような心理学になるのサ。一切生活機能のあるもの、いい直して見れば力の行われているものを直線・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・論理と解析ではその前提においてすでに包含されている以外の何物をも得られない事は明らかである。総合という事がなければ多くの科学はおそらく一歩も進む事は困難であろう。一見なんらの関係もないような事象の間に密接な連絡を見いだし、個々別々の事実を一・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・それで一見いわゆるはなはだしく末梢的な知識の煩瑣な解説でも、その書き方とまたそれを読む人の読み方によっては、その末梢的問題を包含する科学の大部門の概観が読者の眼界の地平線上におぼろげにでもわき上がることは可能でありまたしばしば実現する事実で・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・よってもわかるように、わが国の神話が地球物理学的に見てもかなりまでわが国にふさわしい真実を含んだものであるということから考えて、その他の人事的な説話の中にも、案外かなりに多くの史実あるいは史実の影像が包含されているのではないかという気がする・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・アメリカ文化の特徴がことごとくこの奇妙な物質の中に集中され包含されているような気がするのであるが、その理由は分らない。 アメリカ人には勉強家努力家がなかなか多い。ギャングも居るが真面目な努力家も多い。努力の余波が顎の筋肉に伝わって何かし・・・ 寺田寅彦 「チューインガム」
・・・現在の日本はカラフト国境から台湾まで連なる島環の上にあって亜熱帯から亜寒帯に近いあらゆる気候風土を包含している。しかしそれはごく近代のことであって、日清戦争以前の本来の日本人を生育して来た気候はだいたいにおいて温帯のそれであった。そうしてい・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・誠に宇宙は無限大でその中に包含する万象の数は無限である。しかしてこれらは互いになんらかの交渉を有せぬものはない。風が吹いて桶屋が喜ぶという一場の戯談もあながち無意義な事ではない。厳密に云えば孤立系などというものは一つの抽象に過ぎないものであ・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・吾は個性としてかくかくの理想の下に包含せらるべきものを択むと云うならば、それで勘弁してもよい。好悪は理窟にはならんのだから、いやとか好きとか云うならそれまでであるが、根拠のない好悪を発表するのを恥じて、理窟もつかぬところに、いたずらな理窟を・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・木の実といえば栗、椎の実も普通のくだものも共に包含せられておる理窟であるが、俳句では普通のくだものは皆別々に題になって居るから、木の実といえば椎の実の如き類の者をいうように思われる。しかしまた一方からいうと、木の実というばかりでは、広い意味・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ここに理想的というは実験的に対していうものにして両者を包含す。 文学の実験に依らざるべからざるはなお絵画の写生に依らざるべからざるがごとし。しかれども絵画の写生にのみ依るべからざるがごとく、文学もまた実験にのみ依るべからず。写生にのみ依・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫