・・・ おまけに、丸薬をしかるべく包装するわけでもなく、夜店で売る「一つまけとけ」の飴玉みたいに、白い菓子袋に入れて、……それでは売れぬのも無理はなかった。 そんな情けない状態ゆえ、その時お前がおれに出会ったのは、いわば地獄に仏全くお前に・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・で三百の帰った後で、彼は早速小包の横を切るのももどかしい思いで、包装を剥ぎ、そしてそろ/\と紙箱の蓋を開けたのだ。……新しいブリキ鑵の快よい光! 山本山と銘打った紅いレッテルの美わしさ! 彼はその刹那に、非常な珍宝にでも接した時のように、軽・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・赤天狗青天狗銀天狗金天狗という順序で煙草の品位が上がって行ったが、その包装紙の意匠も名に相応しい俗悪なものであった。轡の紋章に天狗の絵もあったように思う。その俗衆趣味は、ややもすればウェルテリズムの阿片に酔う危険のあったその頃のわれわれ青年・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ 大抵包装の外が破れて、本の四角は無惨にも、醜くひしゃげたりつぶれたりして居る。 けれども、其の汚れた包みを見た時に先ず思う事は、よく無事に着いてくれたというよろこびである。 遙々と来た旅人が、汗塵に黒くなった顔に快く浮べる微笑・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫