・・・何度も建てなおされた家で、ここでは次男に鍛冶屋させるつもりで買ってきて建てたんだが、それが北海道へ行ったもんで、ただうっちゃらかしてあるんでごいす。これでも人がはいってピンと片づけてみなせ、本当に見違えるようになるで……」 久助爺はけろ・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・竹内はそれと気がつき、「ウン貴様は未だこの方を御存知ないだろう、紹介しましょう、この方は上村君と言って北海道炭鉱会社の社員の方です、上村君、この方は僕の極く旧い朋友で岡本君……」 と未だ言い了らぬに上村と呼ばれし紳士は快活な調子で・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・自分がかつて北海道の深林で時雨に逢ったことがある、これはまた人跡絶無の大森林であるからその趣はさらに深いが、その代り、武蔵野の時雨のさらに人なつかしく、私語くがごとき趣はない。 秋の中ごろから冬の初め、試みに中野あたり、あるいは渋谷、世・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・まだいくらもある。北海道歌志内の鉱夫、大連湾頭の青年漁夫、番匠川の瘤ある舟子など僕が一々この原稿にあるだけを詳しく話すなら夜が明けてしまうよ。とにかく、僕がなぜこれらの人々を忘るることができないかという、それは憶い起こすからである。なぜ僕が・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・「今年は、こちらだけでなく北海道も一帯にキキンという話だ、年貢をおさめて、あとにはワラも残らず……」和田はそれを読んでいた。と、そこへ伍長が、江原を呼びに来た。「何か用事ですか?」江原は不安げに反問した。「何でもいい。そのまま来・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・福山すなわち松前と往時は云いし城下に暫時碇泊しけるに、北海道には珍らしくもさすがは旧城下だけありて白壁づくりの家など眸に入る。此地には長寿の人他処に比べて多く、女も此地生れなるは品よくして色麗わしく、心ざま言葉つきも優しき方なるが多きよし、・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・浅間山観測所附近にもある。北海道にもある、支那にもあるから太平広記に出ている。これは元来が動物質だから食えるものである。で、飯綱は仮名ちがいの擬字で、これがあるからの飯沙山である。そういうちょっと異なものがあったから、古く保食神即ち稲荷など・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
十一月の半ば過ぎると、もう北海道には雪が降る。乾いた、細かい、ギリギリと寒い雪だ。――チヤツプリンの「黄金狂時代」を見た人は、あのアラスカの大吹雪を思い出すことが出来る、あれとそのまゝが北海道の冬である。北海道へ「出稼」に来た人達は冬・・・ 小林多喜二 「北海道の「俊寛」」
・・・ 宿直の人に挨拶をして、外へ出た。北海道にめずらしいベタベタした「暖気雪」が降っていた。出口にちょっと立ち止まって、手袋をはきながら、龍介は自分が火の気のない二階で「つくねん」と本を読むことをフト思った。彼はまるで、一つの端から他の端へ・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・娘が、この春休みに北海道へ旅行に行って、そうして、十六ミリというのかね、北海道の風景を、どっさり撮影して来たというわけさ。おそろしく長いフィルムだ。僕も、ちょっと見せてもらったがね。しどろもどろの実写だよ。こんどそれを葉山さんのサロンで公開・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫