・・・ 一寺に北辰妙見宮のまします堂は、森々とした樹立の中を、深く石段を上る高い処にある。「ぼろきてほうこう。ぼろきてほうこう。」 昼も梟が鳴交わした。 この寺の墓所に、京の友禅とか、江戸の俳優某とか、墓があるよし、人伝に聞いたの・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・赤門には清正公が祭ってある。北辰妙見の宮、摩利支天の御堂、弁財天の祠には名木の紅梅の枝垂れつつ咲くのがある。明星の丘の毘沙門天。虫歯封じに箸を供うる辻の坂の地蔵菩薩。時雨の如意輪観世音。笠守の神。日中も梟が鳴くという森の奥の虚空蔵堂。――・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
・・・ と、たそがれの立籠めて一際漆のような板敷を、お米の白い足袋の伝う時、唆かして口説いた。北辰妙見菩薩を拝んで、客殿へ退く間であったが。 水をたっぷりと注して、ちょっと口で吸って、莟の唇をぽッつり黒く、八枚の羽を薄墨で、しかし丹念にあ・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
出典:青空文庫