・・・而るに吉田潔なるものが何か十一月号で上田などの肩を持ってぶすぶすいってるようですが、若し宜しいようでしたら、匿名でも結構ですから、何かアレについて一言御書き下さる訳には参りませんかしら。十二月号を今編輯していますので、一両日中に頂けますと何・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・君には文才があるようだから、プロレタリヤ文学をやって、原稿料を取り党の資金にするようにしてみないか、と同志に言われて、匿名で書いてみた事もあったが、書きながら眼がしらが熱くなって来て、ものにならなかった。(この頃、ジャズ文学というのがあって・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・うしろむきのペリカンを紙面の隅に大きく写しながら、「馬場がむかし、滝廉太郎という匿名で荒城の月という曲を作って、その一切の権利を山田耕筰に三千円で売りつけた」「それが、あの、有名な荒城の月ですか?」私の胸は躍った。「嘘ですよ」一陣の・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・あれは私の匿名ですよ。黄村は狼狽を見せまいとして高いせきばらいを二つ三つして、それからあたりをはばかるような低い声で問うた。なんぼもうかったかの。 傑作「人間万事嘘は誠」のあらましの内容は、嫌厭先生という年わかい世のすねものが面白おかし・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・其処で悪口は悪口としてさらけ出して見たのは善いが、そうなるとまた弊害の出来る事もないではない。其処で匿名などでなく自分一個の意見を爰に現わして見ようならば先ず次の通りである。碧梧桐の句はいつもいくらかずつ変化しておる。これは碧梧桐の・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ 二 匿名批評家にアトムA・B・Cとあり、小原壮助という一つの獅子頭を三人のひとがかぶっている。小原壮助1/3が、七月十五日東京新聞の「大波小波」に「出版の自由か不自由か」という一文をかかげた。『新日本・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ 戸坂潤氏が先頃匿名批評について書いた小論の中で、文学批評のことにも少しふれている。その中に「最近のいわゆる文芸批評に権威がないということは」「別に文学作品に権威が出て」来たことを意味するのでなくて、「かえって文芸批評などに見られないよ・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・『日本評論』の匿名リレー評論をよむと、日本の思想界を次の時代にひきいてゆく力量をもった綜合的思想家としては如是閑氏を措いて他にないように云われている。筆者は誰なのかもとより判明していないが、その文章と対比して当の長谷川如是閑氏が、『改造』八・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫