・・・そして、みんなと別れて、一人で、あちらにぶらり、こちらにぶらり、千鳥足になって、広い野原を、星明かりで歩いてきたのだ。」と、おじいさんは話しました。 みんなは、不思議なことがあったものだと思いました。「よく星明かりで、雪道がわかりま・・・ 小川未明 「大きなかに」
・・・壁に凭れ、柱に縋り、きざな千鳥足で船室から出て、船腹の甲板に立った。私は目をみはった。きょろきょろしたのである。佐渡は、もうすぐそこに見えている。全島紅葉して、岸の赤土の崖は、ざぶりざぶりと波に洗われている。もう、来てしまったのだ。それにし・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・、愚痴といやみだけじゃないか、と嘲笑せられているようで、お気の毒に思っていますが、それもまたやむを得ない事で、今まで三十何年間、武術を怠り、精神に確固たる自信が無く、きょうは左あすは右、ふらりふらりと千鳥足の生活から、どんな文芸が生れるか凡・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・もぶり鮓の竹皮包みを手拭にてしばりたるがまさに抜け落ちんとするを平気にて提げ、大分酔がまわったという見えで千鳥足おぼつかなく、例の通り木の影を踏んで走行いて居る。左側を見渡すと限りもなく広い田の稲は黄色に実りて月が明るく照して居るから、静か・・・ 正岡子規 「句合の月」
出典:青空文庫