出典:青空文庫
・・・』など申すものもございましたが、折から京では神泉苑の竜が天上致したなどと申す評判もございましたので、そう云うものさえ内心では半信半疑と申しましょうか、事によるとそんな大変があるかも知れないぐらいな気にはなって居ったのでございます。するとここ・・・ 芥川竜之介 「竜」
・・・ 私は半信半疑だったが、「――二千円で何を買ったんだ」「煙草だ」「見たところよく吸うようだが、日に何本吸うんだ」「日によって違うが、徹夜で仕事すると、七八十本は確実だね。人にもくれてやるから、百本になる日もある」「一・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 耕吉は半信半疑の気持からいろいろと問訊してみたが、小僧の答弁はむしろ反感を起させるほどにすらすらと淀みなく出てきた。年齢は十五だと言った。で、「それは本当の話だろうね。……お前嘘だったらひどいぞ」と念を押しながら、まだ十二時過ぎたばか・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 和田達多くの者は、麻酔にかかったように、半信半疑になった。「ロシヤが、武器を供給したんだって? 黒龍江軍が抛って逃げた銃を見て見ろ。みんな三八式歩兵銃じゃないか!」「うむ、そうだな!」 が、噂は、やはり無遠慮にはげしくまき・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・神仙妖魅霊異の事も半信半疑ながらにむしろ信じられて居りました。で、八犬士でも為朝でもそれらを否定せぬ様子を現わして居ります。武術や膂力の尊崇された時代であります。で、八犬士や為朝は無論それら武徳の権化のようになって居ります。これらの点をなお・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・ それを聞くと、父さんは半信半疑のままで、娘の側を離れた。日頃母さんの役まで兼ねて着物の世話から何から一切を引き受けている父さんでも、その日ばかりは全く父さんの畠にないことであった。男親の悲しさには、父さんはそれ以上のことをお初に尋ねる・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・ その時になって、私は初めて分配のことを簡単に二人の子供に話したが、次郎も末子も半信半疑の顔つきであった。 自動車は坂の上に待っていた。私たちは、家の前の石段から坂の下の通りへ出、崖のように勾配の急な路についてその細い坂を上った・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・ 私たちがいくら声をからして言っても、所謂世の中は、半信半疑のものである。けれども、先輩の、あれは駄目だという一言には、ひと頃の、勅語の如き効果がある。彼らは、実にだらしない生活をしているのだけれども、所謂世の中の信用を得るような暮し方・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・私は半信半疑で鴎外全集を片端から調べてみた。しかるに果してそれは厳然たる事実として全集に載っているのを発見して、さらに私は暗い気持になってしまった。あんな上品な紳士然たる鴎外でさえ、やる時にはやったのだ。私は駄目だ。二、三年前、本郷三丁目の・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ 菊屋のおじさんは、てんでもう、縁談なんて信用していないふうであったが、しかし、おかみさんは、どうやら、半信半疑ぐらいの傾きを示していたようであった。 けれども僕たちの目的は、菊屋に於いて大いに酒を飲む事にある。従ってその縁談に於い・・・ 太宰治 「未帰還の友に」