・・・もしもその時間が決定され、そしてその人が電車で来たものと仮定すれば、その時間と電車速度の相乗積に等しい半径で地図上に円を描き、その上にある樹林を物色することが出来る。しかし実際はそう簡単には行かない。 しかしこの玉虫の一例は、われわれが・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・その人間の廻転する円の半径がだんだん小さくなるに従って、鳥から見たそれの角速度は半径と逆比例して急激に増大して来るのであるから、鳥の注意と緊張もそれに応じて急激にしかし連続的加速度的に増大を要求されるであろう。そういう、鳥にとってはおそらく・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
・・・木の年輪にしても、これを支配する気象的要素の週期曲線はともかくもかなり平滑で連続的であるのに、杉の木の断面の半径に沿うての物理的性質の週期的曲線は必ずしも連続的平滑ではないのである。鮭の耳石の環状構造にしても、一年の間に存するたくさんの第二・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・週末休に自用車をとばしてどっか田舎のクラブか、別荘か、公園か、とにかく彼の週給額を半径となし得るだけ遠くロンドンから飛び去る。 赤羅紗服地の見本みたいに念の入った恰好をした英国の兵士達が剣がわりの杖を小脇に挾みながら人通の繁いハイド・パ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・燈火は下等の蜜蝋で作られた一里一寸の松明の小さいのだからあたりどころか、燈火を中心として半径が二尺ほどへだたッたところには一切闇が行きわたッているが、しかし容貌は水際だッているだけに十分若い人と見える。年ごろはたしかに知れないが眼鼻や口の権・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫