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・・・の気のたるみから、踵を摺下って褄が波のようにはらりと落ちると、包ましい膝のあたりから、白い踵が、空にふらふらとなり、しなしなとして、按摩の手の裡に糸の乱るるがごとく縺れて、艶に媚かしい上掻、下掻、ただ卍巴に降る雪の中を倒に歩行く風情になる。・・・
泉鏡花
「怨霊借用」
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・・・観察者の頭が現象の中へはいり込んで現象と歩調を保ちつついっしょに卍巴と駆けめぐらなければ動いているものはつかまえられない。 実験や観測でなくて純粋な理論的の考察であっても、一つの指導的なイデーが頭に浮かぶのは時としては瞬間的であって、そ・・・
寺田寅彦
「空想日録」