・・・この意味では菊池寛も、文壇の二三子と比較した場合、必しも卓越した芸術家ではない。たとえば彼の作品中、絵画的効果を収むべき描写は、屡、破綻を来しているようである。こう云う傾向の存する限り、微細な効果の享楽家には如何なる彼の傑作と雖も、十分の満・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・これに限らず、すべての点で彼が非常に卓越した人間であるということを、気が弱くてついおべっかを言う癖のある私は、酒でも飲むとつい誇張してしまって、あとでは顔を赤くするようなことがあるので、淋しくても我慢してひとりで飲む気になるのである。「・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・私はいかなる卓越した才能あり、功業をとげたる人物であっても、彼がもしこの態度において情熱を持っていないならば決して尊敬の念を持ち得ないものである。その人生における職分が政治、科学、実業、芸術のいずれの方面に向かおうとも、彼の伝記が書かれると・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・昔の絵かきは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。そうして得た洞察の成果を最も卑近な最もわかりやすい方法によって表現したように思われる。しかるにこのごろの多数の新進画家は、もう天・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・昔の絵描きは自然や人間の天然の姿を洞察することにおいて常人の水準以上に卓越することを理想としていたらしく見える。そうして得た洞察の成果を最も卑近な最も分りやすい方法によって表現したように思われる。然るにこの頃の多数の新進画家は、もう天然など・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・不肖の息子が、顔立ちばかりは卓越していた父親そっくりであるという自然の冷厳なしきうつしとともに。不幸にもキリストなどに似て生れたことが、ほんとにその男のその男らしい生きかたに、どんな作用も及ぼさないとは思えない。自分というものを、外形の偶然・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第三巻)」
・・・ アインシュタインは、世界に卓越した現世紀の大科学者の一人であり、慰みに弾くヴァイオリンは聴く人の心を魅するそうだが、何年か前書いた感想の中に、忘られない文句があった。この科学者は「私は婦人が高度な知能活動に適するとは思わない」という意・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・ 露伴先生のは、思想がいかにも卓越した、流石は禅学を深くさぐられた先生だけあると思われる。 同じ、馳落を書かれても露伴先生のは、どっかすっきりした禅めいたところがある。 対髑髏 にしても若しあれを紅葉山人が書かれたものとしたら、・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・しかし、そのような読む上での不便はあっても、やはりこの講座は歴史上の各思潮の歴史と影響とを偏らずに解説して、文化史上の卓越した人々の伝記をも集めているという点で、今日の若い人々のためには特に有益なものだと思う。「文学史」として、やはり岩・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・朝子の方は所謂醜女の深なさけで、男が、女と思わず手にさわり喋りするのを、自分が卓越して居る為とか、愛されて居る為とか思って幸福に人生を麗らかにして居るところ痛ましきかぎり。又良人が自由にさせたい通りさせて置くのを、一層深き理解と愛の為と思い・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
出典:青空文庫