・・・ヒイタサントオルムという日本の風俗を記した小冊子と、デキショナアリヨムという日本の単語をいちいちロオマンの単語でもって飜訳してある書物と、この二冊で勉強したのであった。ヒイタサントオルムのところどころには、絵をえがきいれた頁がさしはさまれて・・・ 太宰治 「地球図」
・・・それをあけて見ながら、何かしら単語のようなものを切れ切れに読んで聞かせた。それは「コンニチワ」「オハヨオ」などというような種類のものであったが、あまり発音が変っているから、はじめは日本語だとは気が付かないくらいであった。何だか聞きとれない言・・・ 寺田寅彦 「異郷」
・・・ただ人々の態度とおりおり聞こえる単語や、間投詞でおよその事件の推移を臆測し、そうして自分の頭の中の銀幕に自製のトーキー「東京の屋根の下」一巻を映写するのである。 それで「パリの屋根の下」の観客は、この東京の電車や四つ辻におけると同じよう・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 語学を修得するにまず単語を覚え文法を覚えなければならない。しかしただそれを一通り理解し暗記しただけでは自分で話す事もできなければ文章も書けない。長い修練によってそれをすっかり体得した上で、始めて自分自身の考えを運ぶ道具にする事ができる・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・「語彙」「単語」のみを問題として、語辞構成法や文法上の問題には少しも触れなかった。しかし自分は決して後者の比較の重要な事を無視しているのではない事を断わっておきたい。もっとも文法のごときものでも、これを数理的の問題として取り扱う事が必ずしも・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・黄楊の小櫛という単語さえもがわれわれの情緒を動かすにどれだけ強い力があるか。其処へ行くと哀れや、色さまざまのリボン美しといえども、ダイヤモンド入りのハイカラ櫛立派なりといえども、それらの物の形と物の色よりして、新時代の女子の生活が芸術的幻想・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・早速電話したところ、現在カタログはなくて、在庫品としては単語集と童話集があるだけだそうです。『毎日年鑑』はまだ出ていませんが出次第とっておきましょう。 赤ん坊はずっと良好で三十日のお七夜には健之助という名がつきました。そちらの御意見・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 太郎はこの頃、自分をアーボチャンと云い、いろいろの単語を喋り、なかなか可愛くよく発育しています。今度お目にかけます。大きいということが云えず、アッコオバチャンと云い、コの音の出しようをクの間のように喉音で出します。 今年のうちに青・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「道具という単語をしらべたるところ、仏道修業の用具、人の手足に纏い、又は手にて使用する補助具、他のために利用せらるゝ人。もしくは陰茎、とあり。遺憾ながら予の顔面に該当品を発見せず」 あきらかに、いまの日本に横行している、笑わされたあとで・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫