・・・これは氏のロシア文学に対する博識を裏書きするだけのものだ。僕が「大観」の一月号に書いた表現主義の芸術に対する感想の方が暗示の点からいうと、あるいは少し立ち勝っていはしないかと思っている。 とにかく片山氏の論文も親切なものだと思ってその時・・・ 有島武郎 「片信」
・・・「あれ、虫だとよう、従七位様、えらい博識な神主様がよ。お姫様は茸だものをや。……虫だとよう、あはは、あはは。」と、火食せぬ奴の歯の白さ、べろんと舌の赤い事。「茸だと……これ、白痴。聞くものはないが、あまり不便じゃ。氏神様のお尋ねだと・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・……博識にしてお心得のある方々は、この趣を、希臘、羅馬の神話、印度の譬諭経にでもお求めありたい。ここでは手近な絵本西遊記で埒をあける。が、ただ先哲、孫呉空は、ごまむしと変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑を抉るのである。末法の凡俳・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・しかも当時の博識で、人の尊む植通の言であったから、秀吉は徳善院玄以に命じて、九条近衛両家の議を大徳寺に聞かせた。両家は各固くその議を執ったが、植通の言の方が根拠があって強かった。そうするとさすがに秀吉だ、「さようにむずかしい藤原氏の蔓となり・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・妙に博識ぶって、威張るというのである。けれども、私から見れば、そんな陰口は、必ずしも当を得ているとは思えなかった。大隅君は、不勉強な私たちに較べて、事実、大いに博識だったのである。博識の人が、おのれの知識を機会ある毎に、のこりなく開陳すると・・・ 太宰治 「佳日」
・・・植木を植えかえる季節は梅雨時に限るとか、蟻を退治するのには、こうすればよいとか、なかなか博識である。私たちより四十も多く夏に逢い、四十回も多く花見をし、とにかく、四十回も其の余も多くの春と夏と秋と冬とを見て来たのだ。けれども、こと芸術に関し・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・仮令い博識の大学者たらざるも、人事の大概に通達して先ず自身の何者たるを知り、其男子に対するの軽重を測り、男女平等不軽不重の原則を明にし、内に深く身権を持張して自尊自重敢て動揺せざるまでの見識を得せしむるは、子を愛する父母の義務なる可し。又旧・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 母のアンリエットは、オランダ生れのユダヤ婦人でユダヤ語とはちがうドイツ語を、完全に発音さえ出来なかった。博識な良人につれそう家事的な情愛深い妻としてアンリエットは、息子カールに対しても、言葉のすくない母の愛で、その精神と肉体とをささえ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ その行動性をぬいたら、彼のヒューマニティにのこるのは博識と社交性とそしてすべてのものに不自由のない人間の一種底なしの虚無ではあるまいか。「アメリカの悲劇」は、たしかにこんにちドライサーのテーマとしたところから前進している。「ブルー・ラプソ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ もし浅薄に、旧いしきたりに準じて作家と読者というものを形式上対置して、今の読者はものを知らないという風な観かたに止れば宇野浩二のような博識も、畢竟明治大正文学の物識り博士たるに止ってしまう。 先頃『文芸』にのった作家と作家の文芸対・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
出典:青空文庫