・・・こういう場合にその同じ部門の専門家が審査員になっていれば、当該方面の文献も手近に揃っており、従って提出された仕事がその方面の領域で占める地位とその幅員も判断されやすい。しかし、こういう代表的なアカデミックな仕事ですらも審査員の眼界があまりに・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・少なくもわが国民の民族魂といったようなものの由来を研究する資料としては、万葉集などよりもさらにより以上に記紀の神話が重要な地位を占めるものではないかという気がする。 以上はただ一人の地球物理学者の目を通して見た日本神話観に過ぎないのであ・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
・・・それで結局私のレコード箱にはヴィクターの譜が大部分を占めるようになった。 妙なもので、初めのうちは「牛若丸」や「うさぎとかめ」などを喜んだ子供らも、じきに、そういうものよりは、やはりあちらの名高い曲のいいレコードを喜ぶようになった。きょ・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・ だれであったか忘れたが昔のギリシアの哲学者の一人は集会所のベンチの片端に席を占める癖があった。人がその理由を尋ねたら「せめて片側だけでも自由がほしい」と答えたそうである。昔も今もこうしたわがままなエゴイストの心理は同様だと見える。・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ 以上の譬喩は拙ではあるが、ルクレチウスが現代科学に対して占める独特の位地を説明する一助となるであろう。 誤解のないために繰り返して言う。ルクレチウスのみでは科学は成立しない。しかしまたルクレチウスなしには科学はなんら本質的なる進展・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・その入口からは、待っていた乗客が案外にすいている車と見るやなお更に先きを争い、出ようとする女房を押しかえして、われがちに座を占める。赤児がヒーヒー喚き立てる。おしめが滑り落ちる。乗客が構わずそれをば踏み付けて行こうとするので、此度は女房が死・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・今日は何れの国家民族も単に自己自身によって存在することはできぬ、世界との密接なる関係に入り込むことなくして、否、全世界に於て自己自身の位置を占めることなくして、生きることはできぬ。世界は単なる外でない。斯く今日世界が実在的であると云うことが・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・残りは植物と動物とが約半々を占める。ところが茲にごく偏狭な陰気な考の人間の一群があって、動物は可哀そうだからたべてはならんといい、世界中にこれを強いようとする。これがビジテリアンである。この主張は、実に、人類の食物の半分を奪おうと企てるもの・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 三通りの発展の段階があるにしても、唯一つ、最も基本的で共通な点は、民主社会においては、婦人が、全く人口の半分を占める男子の伴侶であって、婦人にかかわるあらゆる問題の起源と解決とは常に、男子女子をひっくるめた人民全体の生活課題として、理・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ 世界文学の範囲にひろく眺めて、ルポルタージュというジャンルは、社会層のテムポ速い飛躍と複雑の増大によって、確に来るべき文学に従前よりは重大な場所を占めるであろうと考えられる。 日本で報告文学が、小説以前の現実状況の報告文学としての・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
出典:青空文庫