・・・様子を見ると、例えば木刀にせよ一本差して、印籠の一つも腰にしている人の様子でした。 「どうしような」と思わず小声で言った時、夕風が一ト筋さっと流れて、客は身体の何処かが寒いような気がした。捨ててしまっても勿体ない、取ろうかとすれば水中の・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・それからまた胴乱と云って桐の木を刳り抜いて印籠形にした煙草入れを竹の煙管筒にぶら下げたのを腰に差すことが学生間に流行っていて、喧嘩好きの海南健児の中にはそれを一つの攻防の武器と心得ていたのもあったらしい。とにかくその胴乱も買ってもらって嬉し・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・野袴の法師が旅や春の風陽炎や簣に土をめつる人奈良道や当帰畠の花一木畑打や法三章の札のもと巫女町によき衣すます卯月かな更衣印籠買ひに所化二人床涼み笠著連歌の戻りかな秋立つや白湯香しき施薬院秋立つや何に驚・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫