・・・更に進んでその欠点を除去し、その商品を完成するように研究の歩を進めるならば結構であるが、そうでなくて、その欠点を委細構わず天下に発表して、その結果その会社に多大な損失をかけ、事によるとその会社の存在を危うくするような心配が生じたとする。その・・・ 寺田寅彦 「学問の自由」
・・・大鳥居の柱は立っているが上の横桁が外れかかり、しかも落ちないで危うく止まっているのであった。精養軒のボーイ達が大きな桜の根元に寄集まっていた。大仏の首の落ちた事は後で知ったがその時は少しも気が付かなかった。池の方へ下りる坂脇の稲荷の鳥居も、・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・自分なども一度学校の玄関の土間のたたきに投げ倒されて後頭部を打って危うく脳震盪を起こしかけたことがあった。三 高等小学校時代の同窓に「緋縅」というあだ名をもった偉大な体躯の怪童がいた。今なら「甲状腺」などという異名がつけられ・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・迷信でたちの悪いのは国を亡し民族を危うくするのもあり、あるいは親子兄弟を泣かせ終には我身を滅ぼすのがいくらでもある。しかし千人針にはそんな害毒を流す恐れは毛頭なさそうである。戦地の寒空の塹壕の中で生きる死ぬるの瀬戸際に立つ人にとっては、たっ・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・しかし私の知り得た限りの範囲では、この原理の存在を危うくするほどに有力なものはないように思われる。 反対論者の反対のおもなる「動機」は、だんだんせんじつめると結局この原理の基礎的な仮定や概念があまりはなはだしく吾人の常識にそむくという一・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・いつまでもこのような不平を超越しないでいては自分のような弱い神経をもったものは生存そのものが危うくなるであろう。 汽船の外でも西洋小間物屋の店先や、居酒屋の繩のれんの奥から聞こえて来るのが通りすがりに聞かない事はなかった。そういうのは大・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・道を求めて滝壺に落ちて危うく助かった人もある。暴風にテントを飛ばされたり、落雷のために負傷したり、そのほか、山くずれ、洪水などのために一度や二度死生の境に出入しない測量部員は少ないそうである。それにもかかわらず技術官で生命をおとした人はほと・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・そうしてあっぱれ自然の暴威を封じ込めたつもりになっていると、どうかした拍子に檻を破った猛獣の大群のように、自然があばれ出して高楼を倒壊せしめ堤防を崩壊させて人命を危うくし財産を滅ぼす。その災禍を起こさせたもとの起こりは天然に反抗する人間の細・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・また射的をしている人の鉄砲の筒口の正面へ突然顔を出して危うく助かった事もあった。大きくなるに従って物を知りたがり、卓布にこぼれた水が干上がるとどうなるかなどと聞いた。内気でそして涙脆く、ある時羊が一匹群に離れて彷徨っているのを見て不便がって・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・がら、一方では不良少年らの統御するにむずかしい性格によって引きおこされる事件、脱走だの集団的反抗だのととり組み、更に他の一方では、守屋が不貞をされている良人としての軽蔑をも示しつつ彼の教師という地位を危うくしようとする悪計と闘っている。魚住・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
出典:青空文庫