・・・「それを食べたら、肥料桶が、早桶になって即死じゃぞの、ぺッぺッぺッ。」 私は茫然とした。 浪路は、と見ると、悄然と身をすぼめて首垂るる。 ああ、きみたち、阿媽、しばらく!…… いかにも、唯今申さるる通り、較べては、玉と石・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・あの毒は大変です、その卵のくッついた野菜を食べると、血を吐いて即死だそうだ。 現に、私がね、ただ、触られてかぶれたばかりだが。 北国の秋の祭――十月です。半ば頃、その祭に呼ばれて親類へ行った。 白山宮の境内、大きな手水鉢のわきで・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・その上、坑内で即死した場合、埋葬料の金一封だけではどうしてもすまされない。それ故、役員は、死者を重傷者にして病院へかつぎこませる。これが常用手段になっていた。「可愛そうだな!」坑夫達は担架をかついで歩きながら涙をこぼした。「こんなに五体・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・父の猟銃でのど笛を射って、即死した。傷口が、石榴のようにわれていた。 さちよは、ひとり残った。父の実家が、さちよの一身と財産の保護を、引き受けた。女学校の寮から出て、また父の実家に舞いもどって、とたんに、さちよは豹変していた。 十七・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・ずっと昔、たしか南米で生玉子の競食で優勝はしたが即死した男があった。今度のレコードは食った量のほかに所要時間を測定してあるのが進歩である。時間が無制限ならば百や二百の生玉子をのむのは容易である。 ウィーンのある男は厳重なる検閲のもとにウ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・それがそこに何も支うるものがなかったならば怪我人は即死した筈である。棍棒は繁茂した桑の枝を伝いて其根株に止った。更に第三の搏撃が加えられた。そうして赤犬を撲殺した其棍棒は折れた。悪戯の犠牲になった怪我人は絶息したまま仲間の為めに其の家へ運ば・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・ 九月六日に聞いた話 ◎朝、鎌倉の倉知の様子を見に行った小港の兄、自転車にのって行かえり、貞叔母上、季夫、座敷の梁の下じきになって即死し、咲枝同じ梁のはずれで圧せられ、屋根から手を出し、叫んだのを、留守番の男が見つけききつけかけ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・小姓は即死した。竹内の組から抜いて高見につけられた小頭千場作兵衛は重手を負って台所に出て、水瓶の水を呑んだが、そのままそこにへたばっていた。 阿部一族は最初に弥五兵衛が切腹して、市太夫、五太夫、七之丞はとうとう皆深手に息が切れた。家来も・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そして、彼に的らず、後ろのものが胸を撃ち貫かれて即死した。 また別の第三の偶然事、これは一番栖方らしく梶には興味があったが、――少年の日のこと、まだ栖方は小学校の生徒で、朝学校へ行く途中、その日は母が栖方と一緒であった。雪のふかく降りつ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫