・・・読者の限りない人気に引き摺られて次第に延長したので、アレほど厖大な案を立てたのでないのはその巻数の分け方を見ても明らかである。本来読本は各輯五冊で追って行くを通則とする。『八犬伝』も五輯までは通則通りであったが、六輯は一冊増して六冊、七輯は・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ 変な気持は、電燈を消し眼をつぶっている彼の眼の前へ、物が盛んに運動する気配を感じさせた。厖大なものの気配が見るうちに裏返って微塵ほどになる。確かどこかで触ったことのあるような、口へ含んだことのあるような運動である。廻転機のように絶えず・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ 中華民国には地方によってはまれに大地震もあり大洪水もあるようであるが、しかしあの厖大なシナの主要な国土の大部分は、気象的にも地球物理的にも比較的にきわめて平穏な条件のもとにおかれているようである。その埋め合わせというわけでもないかもし・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ 総持寺の厖大な建築や記念碑を見廻した時に私を襲った感じが、どういうものかこのケンプェルの挿絵の感じと非常によく似ていた。 摺鉢形の凹地の底に淀んだ池も私にはかなりグルーミーなものに見えた。池の中島にほうけ立った草もそうであった。汀・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たとえばあの厖大なアフリカ大陸のどの部分にこれだけの気候の多様な分化が認められるであろうかを想像してみるといいと思う。 温帯の特徴は季節の年週期である。熱帯ではわれわれの考えるような季節という概念のほとんど成立しない土地が多い。南洋では・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ そもそも、インフレーションの原因は厖大極まる軍事費のおかげである。当時の代議士たちは、議会の白い建物の中で、一人のこらず夢のように巨額な軍事予算に賛成の手をあげて来たのであった。 国民経済は全くうちこわされ、各家庭の経済は、ひどい・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ついでおまもりのように云っている人があるが、或タイプといってもそれは社会的活動の関係の中で立体的に描かれなければならないので、型として、内的外的活動を規定の枠内で行為させているのは一種の善玉悪玉式で、厖大なロマンチシズムではありますまいか。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・敵にころされた、というその敵の本体は、年々歳々の税によって養って来た厖大な軍事的政府の権力なのだった。 戦争によって配偶を失った女の人たち、その家族を失った子供たちのために、「救済」という形が考えられているうちは、たとえそれが部分的にか・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・半ば眠り半ばは確乎と覚醒している厖大なアジアの一国、中国で、資本主義以前にありながら、しかも、目下の急速な世界情勢の動きにつれて、豊饒な民族資源が才能さえも含めていきなり最も民主的方法で開発される十分の可能をもっているという事実は、私たちに・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 国庫予算の中でも終戦処理費があまり厖大であるためにわれわれ人民は各種各様の課税にくるしんで来ている。その上に、昨今は取引高税その他日常生活に直接ひびく課税目録がふえた。脱税は重い刑でとりしまるとおびやかされている。政府は、日本の目・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫