・・・卑猥な出版物が全く闇紙をつかって、しかも厖大な利潤を得ているのに、教科書がないこと、参考書がないことを訴えている学生は、国民学校から大学から労働者学校に充ち満ちている。ごく具体的な一例を仮定すれば、父親の小説は一冊千円でうれているのに、その・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・そして三角州の突端、騎馬のウェリントン公爵像は背後に英蘭銀行を、右手に株式取引所の厖大な建物を護り、巡査部長のように雑踏を上から睥睨している。 山の手のここは終点である。英国のあらゆる国家的、個人的美徳、老獪、権謀がこの煤けた八本の大柱・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・こうも落ちつく暇のない毎日の間に、隣組からの強制貯金とか、厖大な数字に上る国債の消化とかいう仕事も、つまるところは一家の主婦、さもなければ、家計を援けて働いている女子の勤労者のやりくりに、解決を俟つ有様となった。家庭から先ず男が戦線に奪われ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・原子兵器を全人類にとっての癌たらしめまいと奮闘する仕事を中傷するものがあるとすれば、それは、自分も死ぬことを知らないで、ほくそえみながら厖大な棺の注文を皮算用している棺桶屋ばかりである。〔一九五〇年十月〕・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・しかし、新しきナポレオン・ボナパルトは、またこの古い宮殿の寝室の中で、彼の厖大な田虫の輪郭と格闘を続けなければならなかった。 ナポレオンは若くして麗しいルイザを愛した。彼の前皇后ジョセフィヌはロベスピエールに殺されたボルネー伯の妻であっ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫