出典:青空文庫
・・・あるならば、随分と生きて甲斐なき人生であると思うのだが、そしてまた、相当人気のある劇作家や連続放送劇のベテラン作家や翻訳の大家や流行作家がこんな紋切型の田舎言葉を書いているのを見ると、彼等の羞恥心なき厚顔無恥に一種義憤すら感じてしまうのだが・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・或いはちゃんと覚えている癖に、成長した社会人特有の厚顔無恥の、謂わば世馴れた心から、けろりと忘れた振りして、平気で嘘を言い、それを取調べる検事も亦、そこのところを見抜いていながら、その追究を大人気ないものとして放棄し、とにかく話の筋が通って・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・役人は、ますますさかんに、れいのいやらしい笑いを発して、厚顔無恥の阿呆らしい一般概論をクソていねいに繰りかえすばかり。民衆のひとりは、とうとう泣き声になって、役人につめ寄る。 寝床の中でそれを聞き、とうとう私も逆上した。もし私が、あの場・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・もともと芸術家ってのは厚顔無恥の気障ったらしいもので、漱石がいいとしをして口髭をひねりながら、我輩は猫である、名前はまだ無い、なんて真顔で書いているのだから、他は推して知るべしだ。所詮、まともではない。賢者は、この道を避けて通る。ついでなが・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・職務ゆえ、懸命にこらえて、当りまえの風を装って教えているのだ、それにちがいないと思えば、なおのこと、先生のその厚顔無恥が、あさましく、私は身悶えいたしました。その生理のお時間がすんでから、私はお友達と議論をしてしまいました。痛さと、くすぐっ・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ どうして、こんなに厚顔無恥なのでしょう。カルチベートされた人間は、てれる事を知っています。レニンは、とても、てれやだったそうではありませんか。殊に外国からやって来た素見の客に対しては、まるでもう処女の如くはにかみ、顔を真赤にしたという・・・ 太宰治 「返事」